自主避難者に対する避難先住宅供給の拡充を求める 日弁連会長

自主避難者に対する避難先住宅供給の継続・拡充を求める会長声明

東日本大震災では、避難を余儀なくされた住民の救援目的のために、全国各地の公営住宅が提供され、多くの被災者が避難生活を送っている。

これら公営住宅のうち、厚生労働省は、独立行政法人雇用・能力開発機構が所有する雇用促進住宅の入居対象となる被災者の範囲を、地震・津波の被災者や東京電力株式会社福島第一・第二原子力発電所の事故の警戒区域・避難区域等に居住する避難者だけでなく、政府の指示を待たずに放射能の被ばくを避けるための避難者(以下「自主避難者」という。)も含むものとしていた。そのため、限定的な入居基準で保護が行き届かない自主避難者の救護に役立っていた。

ところが、厚生労働省は、平成23年6月3日付けの「東日本大震災による被害に伴う被災者の雇用促進住宅の入居対象者のうち、福島第一原子力発電所の自主避難を含む避難者の取扱について」と題する事務連絡により、「既に、福島第一原子力発電所の事故発生から概ね3か月が経過し、この間、『原子力被災者への対応に関する当面の取組方針』が決定される等、原子力被災者及び福島県並びに関係市町村への支援の取組が進められている」として、原子力発電所事故当時、福島県外に居住していた自主避難者の入居を打ち切った。

しかし、福島県外であっても空間放射線量が福島県内と同等またはそれ以上の場所があり、これらの地域の住民が被ばくを避けるために、政府の指示を待たずに避難するのはやむをえない対応である。むしろ、放射能の影響は科学的には不明確であり、空間放射線量が低くても、特に放射線感受性が高い胎児・幼児・子どもをもつ者が、自主避難するのは予防原則から言って当然の行動である。福島第一原子力発電所事故の収束の見通しは今なお不透明であり、今後も避難者の受け入れ態勢の拡充が求められる状況にある。

当連合会は、これまでも2011年5月30日付け「福島第一原子力発電所事故の損害賠償等として避難者に対する生活基盤の補償等の速やかな確保を求める意見書」、同年6月14日付け「原子力損害賠償紛争審査会における第二次指針の策定に関する会長声明」等により自主避難者に対する保護の拡充を求めてきた。政府も、ようやく、伊達市や南相馬市などで放射線量の高い一部の地点(いわゆる「ホットスポット」)を特定避難勧奨地点と指定し、自主避難者を支援する方針を明らかにしている。これらの措置は、不十分とはいえ当連合会の求める方向性に合致し、評価できるものである。

しかるに、今回の入居基準の限定は、こうした保護・支援を拡充の流れに明らかに逆行している。雇用促進住宅を運営する都道府県からも、県外自主避難者の受け入れ存続を求める要望も寄せられているところである。

ついては、厚生労働省は、雇用促進住宅における自主避難者に対する入居制限を直ちに撤回すべきである。さらに、政府及び全国の各地方公共団体は、その他の公営住宅についても、福島第一原子力発電所事故が収束するまで、福島県の内外を問わず自主避難者が入居できるよう、入居基準を見直すべきである。

2011年(平成23年)6月23日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児

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