玄海町長に「脱税」疑惑
原発「再稼動」の茶番劇
底の見え透いた、ばかげた振る舞いを「茶番」という。
この国の未来がかかった「原発の是非」をめぐる問題だというのに、展開されたのは玄海町を舞台にした大がかりな茶番劇だった。
主役は原発利権にまみれた町政トップで助演が九電、演出と舞台回しは大手メディアである。
だが、主役にはカネに絡む疑惑がつきまとう。
大手メディアへの苦言
4日、佐賀県玄海町の岸本英雄町長が、”予定通り”九州電力側に玄海原発2号機、3号機の運転再開を容認することを伝えた。
岸本町長は早い時期から再稼動容認の意思表示をしており、とりたてて騒ぐ話ではないはずだが、大手メディアは歪んだ玄海町政の実態を無視して、この日も大騒ぎした。まさに「茶番」だ。
当然のことながら、原発の是非を、原発利益を享受する人間に判断させることの愚かしさを報じる記事は皆無である。
茶番と知られることを恐れているのか、あるいは無能なだけなのか・・・。
「原発利権にまみれた政治家に、玄海原発再稼動のスイッチを押す資格があるのか?」。町長を含めた玄海町政の実態についてきちんと取材していれば、大きな疑問が浮かび上がるはずだが、大半の新聞・テレビはそうした報道の使命を忘れ、”同意”の文字だけを追った。取材対象の背景や人物像も知らずに、である。
周辺自治体や一般市民の声を拾ってバランスをとったつもりらしいが、どのニュースを見ても内容は同じ。画一的な報道には怒りさえ覚える。
岸本町長には、玄海原発はもちろん、原発行政そのものの未来を左右するような判断を下す資格がないことを報じてきたが、まだ足りなかったらしい。
うそぶく玄海町長
図面 岸本町長をめぐっては、町長の自宅と同じ敷地内にある後援会事務所2棟が、ファミリー企業「岸本組」の所有であり同社から便宜供与を受けた状態にあることや、633.66平方メートルに及ぶ同敷地が岸本組の創業者である故・岸本八十吉氏の名義になったままであることが判明。政治資金規正法上の問題や、税法上の疑義が生じていることを報じてきた。(図は八十吉氏名義の土地の形状と建物を示したもの)
岸本町長は、事実上の取材拒否を続けていたが、先月30日、たまたま町長室にいた本人をHUNTERの記者が直撃した。
取材に応じた岸本町長から返ってきた答えは、到底まともな政治家のものではなかった。
前段の主なやり取りは次のようなものだ。
記者:岸本町長の自宅がある土地は、岸本八十吉氏名義のまま、2棟の事務所は「岸本組」所有となっているが、これはどういうことか?
岸本:知らなかった。自分のものだとばっかり思っておりました。
記者:それはおかしい。あなたは県議時代から何度も資産を公開している。どこにも記載がないということは土地や事務所が自分の所有ではないと認識していたことになる。
岸本:いま、調査しているところですが、じつは県議時代の資産公開をそのまま写して出しておったんですよ。
記者:岸本八十吉氏が亡くなったのはいつか?
岸本:(自分が)小学校5年の時。
記者:それからずっと八十吉氏名義のままだったということか?
岸本:そういうことですかね。
記者:固定資産税はどうなっているのか?
岸本:それは私が払っている。
記者:証明できるか?
岸本:それはきちんと払ってるから・・・。
記者:相続税は払っていないということでいいか?
岸本:そのあたりはどうなっているか・・・。きちんと調査して・・・。
記者:脱税の疑いがあるが?
岸本:税金は自分(町長自身)が払ってきたから・・・。
記者:固定資産税の課税権は玄海町にある。あなたはそこのトップだ。公人として、極めて不適切な状態ではないのか?
岸本:言われるところは良く分かってます。
(問答はまだ続くが、後日、取材中の別の疑惑とともに別稿で紹介する。)
したたかな政治屋である。自身の資産公開の内容と、実際の不動産所有者が違っているにもかかわらず、平然と「知らなかった」と言い放ち、矛盾を衝かれると資産公開そのものがいい加減だったと開き直る。さらに都合が悪くなれば、「調査中」だと言う。
これが岸本英雄という人物の本当の姿なのだ。
藪の中
問題は、岸本町長の自宅がある土地(東松浦郡玄海町大字長倉1553番1)の名義なのだが、63歳になる町長の話が事実だとすれば、所有権者の岸本八十吉氏が亡くなって50年以上が経過していることになる。
ところが、問題の土地は昭和52年に1554番1の土地と合筆されており、この時も所有権者は故・八十吉氏のままだ。
登記簿
故意に所有権を故人の名義のままに放置したとしか思えないが、この点について岸本町長は「調査中」として話をはぐらかすばかり。固定資産税にしても相続税にしても、藪の中といった状況だ。
こっそり資産公開内容を訂正
姑息なのは、平成21年分の資産公開では、故・八十吉氏名義の土地については何の記載もなかったのに、取材を始めた後の6月30日に公開された町長の平成22年分資産公開資料が訂正されていることだ。
訂正されたのは6月28日で、所有不動産として「東松浦郡玄海町大字長倉1553番1」の土地633.66平方メートルが書き加えられていた。備考欄には「八十吉氏名義」と明記されている。
この駆け込み訂正は、疑惑を指摘されたためとしか考えられないが、訂正についての正式な発表はされていない。
「脱税」疑惑に答えぬ町長
いずれにしても問題の土地は、登記上は相続されておらず、「脱税」の疑いが残ったままだ。そうした疑問を町長や役場の総務課にもぶつけているが、否定する材料は提示されていない。
「脱税」を指摘されても否定できない町長。これでもこの人物に原発の是非を決する権限があると言うのだろうか。一躍時の人となった岸本町長だが、この人に原発を語る資格などないことを改めて断言しておきたい。
前述のとおり町長をめぐる疑惑はこれで終わりというわけではない。別件については現在、町長側の正式な回答を待っている状態であることを付け加えておきたい。
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玄海町長ファミリー企業、国と県の天下り先だった
原発利権めぐる癒着の実態
玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)の再稼動問題で、鍵を握る存在となった岸本英雄町長のファミリー企業に、旧建設省と佐賀県のOBが天下りしていたことが明らかとなった。
原発利権にすがる地場ゼネコンと、国、県、立地自治体の不適切な関係。中心にいるのは岸本町長その人である。
「岸本組」取締役に国と県のOB
岸本町長のフェミリー企業は、地場大手ゼネコン「株式会社岸本組」(本社・佐賀県唐津市)。岸本町長は同社創業者のひ孫にあたり、現在の同社社長には岸本町長の実弟(佐賀県警OB)が就任している。
HUNTERの調べによると、平成13年4月末に建設省九州地方建設局(現・国土交通省九州地方整備局)を退職した人物が同年5月1日には岸本組技術部長に就任。平成17年からは取締役に昇格していた。
一方、佐賀県を平成15年3月末に退職した人物は同年5月に企画部長として岸本組に入社、平成17年からは同じく取締役となっていた。
ふたりは、平成21年7月にそろって退任しているが、それぞれの入社は岸本町長が県議会議員に在職していた時期となる。
癒着の構造
岸本組は、国土交通省、佐賀県、玄海町の公共事業を受注してきており、同社ホームページにも得意先として明記している。
同社における民間最大の得意先は、玄海原発の事業者である九州電力とその子会社の西日本プラント工業。
岸本組が原発利権に支えられた企業であることは、得意先や受注した工事からも明らかで、天下りの事実が示す癒着構造には改めて批判の声が上がりそうだ。
岸本町長は、岸本組の株式7,000株以上を保有しているほか、自宅の土地は亡くなった同社創業者の名義、後援会事務所の建物は岸本組の所有であることなどがわかっている。
岸本組本社は、一切の取材を拒否する姿勢。