今年3月、ノルウェーの首都オスロで、世界95か国の専門家1360人による調査「ミレニアム生態系アセスメント」が発表されました。生態系の破壊が空前の速さで進んでいると警告しています。調査された世界24か所の生態系のうち15か所は質の低下が激しく、持続不可能な状態に陥っており、このまま破壊され続ければ、新しい疾病の発生、水質の悪化、海洋の死、漁業の衰退、気候の地域変動などが生じると警告しています。
こうした環境の危機的な状況に対して、私たちは、どうすればいいのでしょうか。
4年前に南米のエクアドルに住む先住民から「ハチドリの伝説」を聞きました。それは、こんな話でした。
あるとき、アマゾンの森が燃えていた。森に住む動物たちは、われ先にと逃げていった。しかし、クリキンディという名のハチドリだけは、いったりきたり。小さな身体の小さな口ばしで、水のしずくを一滴ずつ運んでは火の上に落としていた。それを見た大きな動物たちが、「そんなことをして、火が消えるとでも思っているのか」とクリキンディを笑った。それに対してクリキンディはこう答えた。「私は、私にできることをしているだけ」
この話を一緒に聞いていた文化人類学者の辻信一さんと私は、感銘を受けました。巨大な環境問題や戦争などを前にして、私たちは無力感にとらわれることが多くなっています。「私一人がこんなことしたって、いったい何になるんだろう」と。しかし、そんな時代だからこそ、この伝説は私たちを勇気づけてくれます。そう思った私たちは、ハチドリ計画というグループをつくり、ハチドリの伝説を広く伝えていくために「私にできること?地球の冷やしかた」という冊子をつくりました。
ハチドリの物語にイラストを書いてくれたのは、カナダ先住民アーティストのマイケル・ヤグラナス。マイケル自身も森林保護活動に熱心で、この取り組みに共感してくれました。ハイダ民族の独特なイラストで、子どもたちにも喜ばれています。こんな感想が届きました。
「本日、本が着きました。わが息子(4才)は、面白い、面白い、と喜んでみておりました。絵がとても、気にいったみたいです。今度は6才の息子にも読んであげようと思っております。私自身、この本を知人から紹介され、読む事を楽しみにしておりました。深い話なので、幼稚園のお母さん達にも紹介します。少しずつ、地球の事を考えて、動いて行く人が増えていくように、私も動いて行こうと思っています。」
また、冊子には、友人、知人、仲間たちからのメッセージも掲載されています。12歳のときに地球環境サミットで「伝説のスピーチ」をしたセヴァン・スズキは、水筒や自転車を愛用したり、地元の有機野菜で弁当をつくり、生ゴミで堆肥をつくるといった日常生活を紹介し、最後にこう書いています。「たまに、普段しないような大きくて重要なことをしてみるのも大切。でも、毎日必ずやることを、小さく変えて、積み重ねていくこともすごく大切だと思うんです。」
セヴァンのお父さんデヴィッド・スズキ(カナダの国民投票で「現存する最も偉大なカナダ人」に選ばれた生物学者、環境運動の世界的なリーダー)は、こんなメッセージを寄せてくれました。
「ハチドリのお話の『燃えている森』は、単なる比喩ではありません。急速にふくれあがった人口と強力になった科学技術と、とどまることを知らない消費のせいで、地球は実際に燃えているのです。『永遠の経済成長』というばかげた神話のもとで、私たちは生物圏における多様性をどんどん損なっていますが、皮肉なことに大自然の中にこそ、私たちの暮らしを永続的に保証する力が秘められているのです。つまり環境破壊は、未来の人々の生きる糧を奪うことにほかならないのです。
しかし、まだ希望はあります。世界中の人々が力を合わせることができれば、私たちはこの危機から抜け出すことができます。一人ひとりがハチドリになって、『私にできること』をしていけば、必ず未来が開かれることでしょう。」
植林運動でノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイ(ケニア環境副大臣)さんもメッセージを寄せてくれました。
「私はハチドリの物語が大好きです。このとても力強い物語は私たちに、献身と忍耐の大切さを教えてくれます。私たちが何かをやり始めるとしましょう。それがとてもいいことであっても、最初はみんなが賛成してくれるというわけにはいきません。応援してくれるものと思っていた人たちに笑われたり、そっぽを向かれたりすることもあるのです。
私はハチドリのように、自分にできることを、責任感と、根気強さをもって、精一杯やりたいと思ってきました。私の大好きな言葉に「もったいない」があります。日本語で聞いたこの言葉は、いま世界中の人々が取り組んでいる「リデュース、リユース、リサイクル」という3Rの底に流れる精神を表しています。資源を有効に、責任を持って使うこと、それが「私のできること」なのです。世界中の人々がこの「もったいない」の精神で結ばれることを願っています。
環境ジャーナリストの枝廣淳子さんは、こう書いています。
「火事を見たハチドリは仲間を増やそうと思いました。『それぞれが1羽ずつ仲間を増やすように伝えて!』――2回伝わると4羽が、3回伝わると8羽が、10回伝わると1024羽が、20回伝わると100万羽以上が、そして40回伝わると1兆羽以上のハチドリがやってきて、あっというまに火事を消してしまいましたとさ。伝えること、広げること――これからもやっていきます。」
この他、音楽家の坂本龍一さん、作家のC.W.ニコルさんなどが素敵なメッセージを寄せてくれました。冊子には、「地球が燃えている」現状と私たちが、「毎日の暮らしで落とせるしずく」のアイディアもたくさん紹介されています。
地球温暖化防止のために「私たちにできること」の一つは、エネルギーの使用を減らしてCO2の排出を削減すること。もう一つは、CO2の吸収を増やすために森林破壊を減らすこと、そして、森林を再生していくことです。
「ウインドファームにできること」は、有機工業運動と森林農法(アグロフォレストリー)の重要性を伝え、広めることです。
有機工業運動を少し説明しますと、かつて25年以上も前に、農薬の問題に気づいた一握りの生産者と消費者とが手を結び、手探りで育ててきた有機農産物の産直運動が、現在、農業全体を無農薬栽培や減農薬栽培に向かわせつつあるのと同じことを工業の分野でも展開してみよう、ということです。
生産者(発明家や製造業者)と消費者とが手を結んで賛同者を募り、一緒に「非電化製品」を作っていく運動です。電気を使わない除湿機、冷蔵庫、掃除機などが既に試作されており、洗濯機やエアコンなども数年以内に試作されそうです。詳しくは、藤村靖之さんが書かれた「愉しい非電化」という本をご覧下さい。(ウインドファームで販売しています)非電化製品については、4年前に『エコロジーの風』で初めて紹介しましたが、その後、新聞、雑誌、ラジオ、テレビなど様々なメディアが取り上げてくれています。いずれ、「素敵な宇宙船地球号」というテレビ番組でも放映される予定です。
非電化製品を製造するためのネックになっているのが資金の問題です。工業製品は生産する数が多くなるほど、1台あたりの生産コストが安くなります。一方、たくさん作るためには、多額の資金が必要になります。そのことがネックで、これまで工業製品は、大企業にしか作れないと思われてきました。しかし、生産者と消費者とが手を結ぶ「有機工業運動」=「非電化製品の共同生産、共同購入運動」なら、その壁を突き崩すことが可能です。その第一弾として、非電化除湿機の有機工業運動が始まりました。500台の注文がまとまれば、1台15000円で作ることができます。今のところ300台くらいの予約が集まっていますので、あと200台ほど募集します。
非電化除湿機は、湿気を吸収した除湿機を「布団を干すように」太陽にさらす手間がかかります。しかし、それをすれば、電気が不要で、除湿剤を使い捨てにすることもなく、繰り返し除湿能力が回復して、半永久的に利用できます。興味を持たれた方は是非、弊社まで御連絡下さい。詳しい資料をお送りします。
一般家庭では、掃除機、洗濯機、冷蔵庫、エアコン、待機電力だけで、総電気消費量の約70%を使用しています。また、照明なども太陽光を利用したもの(光ダクト)が可能ですし、家庭だけでなく、オフィスや工場などでも非電化や「減電化」が普及していけば、大幅に電力消費量を削減できるでしょう。
「ウインドファームにできること」のもう一つが、森林農法(アグロフォレストリー)の重要性を広く伝えることです。アグロフォレストリーとは、森の中にコーヒーや果樹や作物を混植する農法のことです。森林を伐採せずに栽培できるだけでなく、この農法によって、伐採された森林の再生も可能です。アグロフォレストリーは、森林の保護や再生という点で、地球温暖化防止の面からも非常に注目されている優れた農法なのです。
日本であまり知られていないアグロフォレストリーをより多くの人に知っていただくために、ウインドファームではメキシコのコーヒー生産者と研究者を日本に招待し、九州、関西、中部、関東を講演ツアーで廻ることにしました。皆様、この機会にぜひ生産者と研究者に会ってみて下さい。(詳しくはこちら)
今年4月、アースデイ事務局からの依頼に応えて「私にできることー地球の冷やしかた」というメッセージを送りました。
外出するときに、使い捨ての割り箸を使わずにすむようマイ箸を持ち歩いたり、
使い捨てのペットボトルや缶飲料ではなく水筒を持ち歩いていると、こんな声が
聞こえてきます。「あんた一人がそんなことやったって、世の中は変わらないよ。
政治を変えなきゃ、環境は守れないよ。」
確かに、環境の悪化は「政治を変えなければ、どうにもならない」ところまで
来ています。地球温暖化防止のために「環境税」が有効なことは、環境先進国が
示していますが、日本の経済界のリーダーたちはそれに反対しています。地球温
暖化防止のための京都議定書を離脱した米国と同じように、「国益に反する」とか
「国際競争力が低下する」といった理由です。彼らは、目先のことしか考えず、
未来世代のことを考えていません。
4年ほど前に、南米のアンデス地方に住む先住民族キチュアの友人から、ある
伝説を教えてもらいました。それは、こんな物語でした。
(中略)
いま、地球は燃えています。この星が燃え尽きてしまうまえに、私たちも水滴を運
びましょう。子どもにできること、学生にできること、主婦にできること、会社員にで
きること、経営者にできること、教員にできること、議員にできること、消費者として
できること、有権者としてできること、私たち一人一人にできることを皆で探し出し、
勇気をもって実行していきましょう。世界にハチドリが増えていけば、きっと世界は
変わるはずです。
ハチドリの冊子を大量に買っていただいた方から、こんなうれしい便りが届きました。
「今日行った幼稚園で子どもたちに冊子を使ってお話をしました。『ぼくたちもホッキョクグマの為に手を使うからね』(訳:ホッキョクグマが氷の上に住み続けられるように、温暖化を防ぐために、僕たちも電気鉛筆削りを使わないで、手で削るからね)等と、話してくれました。」
ウインドファームでは、これからも「私たちにできること」を考えながら実行していきたいと思います。