核燃料再処理工場 本格稼動へ
放射能物質を大量放出
熊本日日新聞(朝刊) 2007年 5月 15日 火曜日
チェルノブイリ原発事故で最も被害を受けたベラルーシやウクライナ。1990年以降、年に1、2回は現地を訪れ、被害者に対する医療支援にかかわっている。
現地に医薬品や医療機器を届ける活動の中で、ナターシャという中年の女性と出会った。彼女には2人の子どもがいたが、事故から10年ほどして息子さんが白血病と甲状腺がんを患って亡くなり、一昨年は娘さんが胃がんで亡くなった。
今、ナターシャは娘が残した幼い孫の世話をしている。しかし、「孫がいつまで元気でいてくれるだろうか。」自分自身も体調が良くないため、「いつまで孫の世話ができるだろうか」と心配している。
放射線による健康被害で特に怖いのは、細胞分裂が活発な子どもほど大きな被害を受けること。親よりも子どもが先に亡くなることが多い。そして、被害が長く続くことだ。
そんな被害の実態を見てきた者として、いま日本で起きていることを座視することができない。昨年3月、青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場が試運転を始めたのだ。今年11月には本格稼動する予定だ。
稼動が始まり、年800トンの使用済み核燃料が再処理されれば、多種類の放射性物質が大量に放出される。日本原燃の発表によると、空にはクリプトン85という放射性物質がチェルノブイリ原発事故の10倍も放出され、海にはトリチウムやヨウ素129などの放射性物質を含む廃水が2日に1回、600トンも放出されるという。200kgのドラム缶に換算すると、1回に3,000本、年間で54万本分にもなる。
日本には、チェルノブイリ原発事故の後、放射能で汚染された食品の輸入を防ぐため、輸入食品が含む放射性物質(セシウム)の濃度の上限を1kg当たり370ベクレルに設定した。青森県は、同工場の操業により、魚が含むトリチウム濃度を、同300ベクレルと算出している。
これまでは、原発で事故が起こっても「放射性物質の流出はありません」という報道にホッとしていた。しかし、再処理工場は日常的に放射性物質を放出する。食料自給率が40%の日本を支えてきた東北や北海道の食べ物が汚染されていったとき、日本はどうなるのか。少子化が進む日本で、この問題はどう影響するのだろう。
こんな重大なことを多くの日本人が知らないまま、11月からの本格稼動が始まろうとしている。まずこの問題を、日本人みんなが知る必要がある。その上で「本当に再処理工場を稼動させるかどうか」を国民皆で考えたい。
そのために、「いま、私にできること」は何か。このエッセイも私にできることの一つである。