ノーベル化学賞 根岸英一教授「東大の先生は買収されている」から抜粋
(週刊現代 2011年5月21日号)
原発を推進してきた科学者はフクシマの惨劇をどう考えているのだろうか。彼らはどこで間違えたのか。昨年、ノーベル賞を受賞、この国に栄誉をもたらした根岸教授は言いにくいことをズパリと言った。
原発は止めるべきです
「原発に頼ることを、この先はやめるべきです」
講演のために訪れたというアトランタのホテルのロビーで、2010年にノーベル化学賞を受賞したパデュー大学特別教授の根岸英一氏(75歳)は、静かに語り出した。
「いったん、福島第一原発のような事故が起きてしまうと、そう簡単には解決できません。また放射性物質漏れのようなことがあった場合に私たちがしなければならない心配事が多すぎます。しかも原発がある限りそれから逃れることができない。それだけ人を悩ませる原発に頼るのはおかしいでしょう。
「原発の立地をみてみると、想定が甘い。つまりこの事故は人災と言われても仕方ないでしょう。定められた安全基準が明らかに甘かったことは確かです。そして原発では今回だけでなく、過去にもいろいろ事故が起きています。そのこと自体が問題です。
さらに原発ではどう処理しても高レベル放射性廃棄物が残ってしまう。にもかかわらず、そのまま動かし続けていることもおかしいと思います」
「原子力に替わるものとして太陽光、風力、波力、地熱、バイオマスなどに可能性があると思います。風力はアメリカでも比重が増えてきていますが、ドイツではすでに総電力の5%を占めるところまで伸びています。
私がもうひとつ注目しているのは波力発電です。ただ、いまだに波の力を電力に替えることができていません。かなり前からなぜそれが実現できないのか、不思議に思っていました。これはエンジニアの責任です。もうすぐ実験段階に入ると聞きましたが、とっくに実用化されていてもおかしくなかったと感じています」
原子力に頼らない社会を実現するために、根岸氏が日本で実施するべきだと考えているのは、「スマートグリッド」だ。これは新しい機能をもつ電力網のことで、ITを活用して一定の地域内の電力の需給バランスの最適化やコストの最小化を実現するもの。根岸氏によればすでにアメリカではいくつかの地域で導入されているという。
「たとえばコロラド州ポルダーもそのひとつ。ここではそれぞれの家に太陽光発電のシステムを設置させて、これをコンピューターで制御して需給バランスを調整しているのです。実はポルダーで使われている技術は、日本のもの。だから日本でもこの方法を地域ごとに導入すればいいと思います。これが実現すると東電などの電力会社の利益は減ることになるかもしれません。でもそれは仕方ないことでしょう」
こうした新しい技術、システムを使って、日本は脱原発を進めていくべきだと、根岸氏は話す。
「日本のエネルギー政策がどこで間違えたか考えたことはありませんが、科学者やエンジニアが原発だけでなく、もっと他のエネルギーについて研究すべきだったと思います」
「東大の教授は東電に買収されています。そうすると公平にものを言えなくなる。だから、絶対に買収されてはいけません。私は買収されていないから、どこでも何に対しても自由に発言できるのです」
「原発は減らしていかねばなりません。そのための科学者やエンジニアの努力はまだ足りないような気がします。だから、原子力に替わる危険ではない代替エネルギーの開発にもっと真剣に取り組むべきです。そうすれば必ず新しい何かをみつけられると、私は信じています」