市民の運命変えられて
2011年9月7日 西日本新聞朝刊(1面)から抜粋
考・原発 「フクシマ」半年(2)
福島県南相馬市長 桜井勝延
昨年1月から現職。震災後、動画投稿サイトで世界に支援を訴え、米誌タイムの2011年版「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた。55歳。
福島第1原発事故で、立ち入りが原則禁止される20キロ圏内の警戒区域などが設定された福島県南相馬市。桜井勝延市長は、市の復興計画基本方針に「脱原発」を打ち出し、二つの電源3法交付金の辞退も決めた。
「原発は、既成の事実として約40年間存在してきた。私も今まで、推進とも反対とも言ってこなかったし、言う必要もないと議会答弁してきた。『安全だ』という方便の下で、みんな妄信してきたんじゃないのかな。事故は起こらないと」
「だけど事故で、市民の運命が百八十度変えられた。いまも2万7千人近い市民が市外に避難し、約3千人がすでに住所移転してしまったという事実。いまのところ、もたらされたのは負の遺産だけだ。推進に『イエス』という言葉を出しちゃならんし、脱原発は当然のことと思います」
「東北電力の原発計画に関する交付金は、脱原発をはっきり意思表示した以上、申請するわけにはいかない。福島第1原発の交付金は、いまさらもらうような話じゃないでしょう。受け取って、推進側と(補償で)妥協するつもりは全くない」
国はこれまで、交付金を地域振興の「アメ」や「迷惑料」として地方に配り、原発を引き受けさせてきた。原発マネーに対する依存体質が根深い被災自治体もある。
「住民の合意を得る前に、お金で人の気持ちを向けさせる。いわば『まき餌』的な形で交付してきたわけでしょ。国は原発推進のために国民の税金をばらまくことで、エネルギー産業全体に自由に参入する機会を失わせてきたんじゃないのかな。政策誘導でやるんであれば、自然エネルギーや再生可能エネルギーにも平等に交付するべきだ」
「原発マネーに依存せず、自らの力だけで復興が可能かどうかという前に、東電と国は、生活に支障のないレベルまで放射線を下げ、失われた全てのインフラを回復する最大限の責任をここに届けなきゃいけない。われわれは最後まで求めていくし、市民が希望を抱けるよう、例えば放射線医療の世界的拠点づくりなど、負の遺産をプラスに変えるような新産業育成にも取り組みたい」
九州電力玄海原発でも、再稼動をめぐる「やらせメール」問題が発生。国の原子力政策は迷走している。
「再稼動が前提にあるから、ああいうことになっていく。今回の事故で80キロ離れた地域まで子どもたちが避難している。『福島産』というだけでモノが売れない風評問題もあるし、原発の被害はあまねく受けるわけですよ。だから玄海原発の場合も立地自治体だけで決める話じゃないでしょう。もっと広い範囲の人たちに自由に参加してもらい、再稼動の正当性を議論することが必要」
「原発を一挙にゼロにしろとは言わない。新しいものは造らず、既存原発は原則に従って廃炉にしていく。その間にコストはかかっても、より自然と共生するような新しいエネルギー政策にシフトしていくべきです」