原発の敷地面積があれば太陽光はもっと発電可能 から抜粋
テスラ・モーターズCEO イーロン・マスク
(11/09/16 | 14:18 東洋経済)
震災以降、関心が高まっている再生可能エネルギー。中でも太陽光発電は、発電コストの高さなどが指摘されているが、米国や欧州では普及が進みつつある。日本での普及に必要な条件は何なのか。被災した福島県相馬市を7月末に訪れ、25万ドル(約2000万円)相当の太陽光発電システムを自身が代表を務める財団経由で寄贈した、米カリフォルニア州の電気自動車(EV)ベンチャー、テスラ・モーターズのイーロン・マスク会長兼CEO(最高経営責任者)に聞いた。
──今回、相馬市に太陽光発電システムを寄贈することになった経緯と目的は?
「マスク財団」では毎年、太陽光発電システムを寄贈しており、昨年はハリケーン被害を受けたアラバマ州に寄贈をした。今年は未曾有の震災が日本で発生したことを受けて相馬市への寄贈を決め、こちらから相馬市にコンタクトを取らせていただいた。
寄贈によって、太陽光は安全な代替エネルギーである、ということを示したいとの思いがあった。太陽光は日本にとってだけでなく、世界にとっても重要なエネルギー源だ。特に日本はカリフォルニアと同じく、津波や地震などの多い地域であるだけに、原子力に代わるエネルギーがあるということをもっと多くの人に注目してもらいたい。
──日本では太陽光発電は原子力発電に比べて高コストだ、という考えが根付いています。
太陽光パネルの価格は1ワット当たり4~5ドルだったのが今や同2~3ドル程度と、ここ5年間でほぼ半減した。ただ、たとえば許認可に必要な事務費用はパネルと同じくらいかかるうえ、人件費など諸費用も重い。パネル自体の価格は下がっているのに、関連費用が高いのが問題だ。
一方、原子力は安価なエネルギーだと考えられているが、発電コストを考える際には、原発規制や安全対策、核廃棄物処理などにかかわるあらゆる費用や補助金なども含めるべきだ。こうした「隠れたコスト」を誰が支払っているのかというと、納税者だ。各エネルギーによる正確な発電コストを比較するには、こうしたコストもすべて合算して見極めなければいけない。
典型的な原子力発電所の面積は、建屋を中心に周辺の敷地なども含めて考えると半径3キロメートル程度、およそ28~29平方キロメートル程度だ。それだけの面積があれば太陽光発電の場合、数ギガワットの発電が可能となり原発の発電能力より高い。しかも原発の場合、「立ち入り禁止地区」を設けなければいけないが、太陽光はそうした心配もなく家庭でも会社でもどこにでも設置できる。
──日本で太陽光の普及を促進するためにはどういった環境が必要でしょうか。
やるべきことは三つある。まず一つは市町村や県単位ではなく、国家レベルで規制を整備することだ。
二つ目は補助金なども含めた原発の正確な発電コストを算出すること。そのためには、たとえば会計事務所など、客観的な試算ができる第三者がコストを算出するのがベストだ。そのうえで、補助金は各エネルギーに対して公平に提供する。何も太陽光を優遇しろ、と言っているわけではなく、補助金は平等に与えられるべきだと考えている。
さらに、太陽光発電には初期投資費用がかかるので、設備投資のために低利子ローンを提供するべきだ。太陽光の場合、いったん設置してしまえば、原発や火力発電のように継続的な燃料コストはかからないし、維持費も高くない。何十年も発電できるという利点もある。まずは設置できる環境を整える必要がある。
原発は簡単な選択だが長期的な視点が必要
――テスラのほかに、(太陽光発電ベンチャーの)ソーラーシティの会長も務めていますが、今回のことを機に日本に進出する考えは?私も経営陣を説得しようとしたが、規制の問題に加えて、米国企業が日本に受け入れられるのか、という懸念もあり、進出の考えはない。
――太陽光発電の普及例として、カリフォルニアやドイツなどを挙げていますが、カリフォルニアでの普及率はどの程度ですか。
普及率からすると、全体の1%程度だが、成長率は年率50%程度にも上る。つまり今後は、1%が1・5%になり、それが2%、3%と伸びていく。それにしたって普及率が低いと思うかもしれないが、すべての大木も元は小さな種。大事なのは成長率だ。ソーラーシティの場合、年間2倍のペースで成長している。
カリフォルニアでは、太陽光パネルを設置する世帯などに対するリベート(自治体補助)の効果が大きい。もともと環境保護への関心が高く、人口密度も高いことから、効率的に太陽光パネルを設置できるという地理的な利点もある。
──日本でもまずは考え方を変えなければいけませんね。
長期的にはエネルギー源として何が適切かを考えなければならない。原発はコストの問題だけでなく、核廃棄物をどうするかという問題も抱えている。現状では、原子力は一見安価で簡単な選択に見えるが、先のことを考えるとどうか。
心理学の臨床実験で、伸びる子供の行動を分析したものがある。実験では子供に対して、「今ここにクッキーが1枚あるけれど、5分待てば2枚あげる」と伝える。伸びる子供は後者を選ぶ。目の前のことだけを考えてクッキー1枚に甘んずるか、先を見据えて2枚確保するか。
原発は間違いなく「クッキー1枚」の発想だ。
(聞き手:倉沢美左 =週刊東洋経済2011年9月3日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。Elon Musk
オンライン決済サービスのペイパルなど複数のネット企業を創業後、2003年にテスラ・モーターズを共同設立。08年にCEOに就任。02年創業した宇宙船開発のスペースXのCEOを務めるほか、太陽光発電ベンチャー、ソーラーシティの会長にも就く多忙な40歳。