原発輸出の継続 ちょっと待った野田首相 (愛媛新聞社説)

原発輸出の継続 ちょっと待った野田首相
(愛媛新聞社説 2011年09月25日)

 国連の「原子力安全首脳会合」で演説した野田佳彦首相は、原発の安全性向上や福島第1原発事故の情報開示などで日本の信頼回復に取り組む決意をアピールした。
 安全性については「世界最高水準に高める」とし、事故情報のすべてを国際社会に開示することを確約。第1原発原子炉の年内の冷温停止へ向けた努力も強調した。
 事故で失った安全性や技術への信頼を、一刻も早く取り戻そうとの姿勢は当然だ。
 原発事故は国境を越え影響を与える。それだけに、今後も徹底的な安全性追求の姿勢を国際社会に示したい。
 ただ、安全性を高めることを条件に、各国への原子力技術の協力や原発輸出を継続する考えも表明した。ちょっと待った、と言いたい。
 事故を契機に、世界のエネルギー戦略はダイナミックに再構築されようとしている。欧州では原発からの脱却を目指す機運が高まっており、エネルギー供給をめぐる動向はなお流動化しよう。
 そういう時期に、事故の当事国である日本の首相が、検証も安全性の確保も途上のまま「輸出」を口にした。あまりに拙速な方針を、国際社会はどう受け止めようか。
 高度な技術ゆえ、原発はかつて限られた先進国の特権的なエネルギーと位置付けられていた。その後、原発先進国の技術供与で、原発は新興国にも広がりつつある。
 日本も新成長戦略の「パッケージ型インフラ海外展開」として官民一体で原発輸出を推進してきた。先進国は原発の輸出を競ってきたのだ。
 ただ近年、日本は受注で後れを取るなど、原子力産業にかかわる関係者の間で危機感もあったと言われる。競争が競争を呼び、あえて原発を必要としない地域の住民から批判を浴びた例もある。
 まさに、そういう時期に起きた福島の事故だ。日本が輸出したタイやインドネシアなど東南アジアの住民からは、安全性について不安の声が上がっているという。
 地元の都合を置き去りに進められてきた大型公共事業の手法をほうふつとさせる。自国の産業発展を優先するあまり、途上国の環境や国民の命を犠牲にするような事態は避けねばならない。
 技術や資金の供与、借款は富の再配分であり、今後も日本に積極的な国際貢献が求められるのは言うまでもない。しかしそれは、相互の信頼と全面的な合意が大前提だ。
 政府は再生可能エネルギーの普及を含めた戦略の再構築を行っている。まずは、自国のエネルギー政策を国際社会に示すのが筋だろう。
 原発信仰も安全神話も、事故が払拭(ふっしょく)した。冷静に原発の未来を見据えるなら、輸出の議論はずっと後回しだ。

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