肥田舜太郎医師「最近、外国の人から『広島と長崎の経験をした日本が、なぜ地震の多い自国の海岸沿いに原発を54基もの原発を作ったんだ』というお話がたくさんあります。でも、なぜそうなったのかということをお話になる方は誰もいません。この原因はたったひとつ、占領したアメリカ軍が被曝者の病気すらもアメリカの軍事機密という声明を出して、被曝者に一切被害をしゃべってはいかん、書いてもいかん。また医師は職業柄被曝者が来れば診療はしてもよろしいがその結果を書き残したり、それを論文にして論議をしたり、日本の医学会が放射線のことを研究することを一切禁じる。これに違反する者は占領軍として重罪に処すという声明を発表して以来、被曝者は沈黙を守り、医師は自分の診察した症状を記録もしなくなったのです。」
肥田舜太郎氏ほか専門家が「市民と科学者の内部被曝問題研究会」設立
(2012-01-28 11:00 骰子の眼)
「アメリカの軍事機密だったので内部被曝は無視され続けた」
昨年3月11日に起きた福島第一原発事故後、被害の拡大を続ける放射能汚染の問題を受け、内部被曝に重点を置いた放射線被曝の研究を市民と科学者が協力して行う組織「市民と科学者の内部被曝問題研究会(内部被曝研)」が発足。27日、自由報道協会の麹町報道会見場にて、被曝医師の肥田舜太郎氏をはじめとした専門家が記者会見を行った。
(写真)麹町報道会見場で行われた記者会見の様子。左より市民放射能測定所理事の岩田渉氏、物性物理学の矢ヶ崎克馬氏、素粒子物理学の澤田昭二氏、肥田舜太郎氏、放射線医学、呼吸器病学医師の松井英介氏、歴史学の高橋博子氏
会見の冒頭で呼吸器病学医師の松井英介氏は、現在の原発の大きな問題として「通常運転でも様々なかたちの有害な放射性物質が出て、それにより自然環境や原発の5キロ圏内、あるいは50キロ圏内に住んでいる人たちへの健康障害がある」と指摘。物性物理学の矢ヶ崎克馬氏は、団体名が内部被曝〈問題〉研究会であることを強調し、「いまの被曝の学問は、アメリカの核戦略の遂行及び原子力発電の推進のために被曝の実態から内部被曝の問題が隠されており、本当の科学をやっていない」と、これまで政治的に支配されてきた被曝に対する研究を明らかにし、人々の命を守ることを課題として活動をすることを発表した。
質疑応答の前に、広島の原爆で被曝し、医師として当時より66年間にわたり被曝者の治療を続けてきた肥田舜太郎氏が自らの経験を踏まえ語った。
「私は日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)のたったひとりの医師として、全国の被曝者の相談を一手に引き受けてきました。聴診器をあて診断をした人間は少なくとも6,000人に及びます。そのなかには、外部被曝を受けて大変な思いをして今日まで生き延びてきた人もいますし、内部被曝で説明のできない非常に困難な症状を持ちながら、外から見てなにも症状がわからないため世間からは被曝者として認められず、社会から差別を受け、一人前の人間として生きていけなくなった患者もたくさん見てきました。
最近、外国の人から『広島と長崎の経験をした日本が、なぜ地震の多い自国の海岸沿いに原発を54基もの原発を作ったんだ』というお話がたくさんあります。また日本のテレビでしゃべられる専門家の方々も、そういうお話をされます。これは事実です。でもなぜそうなったのかということをお話になる方は誰もいません。この原因はたったひとつ、占領したアメリカ軍が被曝者の病気すらもアメリカの軍事機密という声明を出して、被曝者に一切被害をしゃべってはいかん、書いてもいかん。また医師は職業柄被曝者が来れば診療はしてもよろしいがその結果を書き残したり、それを論文にして論議をしたり、日本の医学会が放射線のことを研究することを一切禁じる。これに違反する者は占領軍として重罪に処すという声明を発表して以来、被曝者は沈黙を守り、医師は自分の診察した症状を記録もしなくなったのです。ですから、当時の被曝者が戦後経験してきた放射線の被害の実情は、どこにも正確に記録されていない。今の政府も今のお医者さんも、誰もこの当時のことを正確に学ぶ資料がまったくありません。
福島の事故の話を聞いたとき、いちばんはじめにこれは大変なことになったな、と思いました。福島第一原発から出ているのは、広島や長崎の原爆で使われたウラニウムとプルトニウムを混ぜあわせた放射線です。あそこの人たちに将来、広島と長崎の被曝者が経験したことがそのまま起こってくると考えるほうが常識なんです」。
また、日本に核戦略や原発推進政策の影響を与えるアメリカへのアピールの具体的な道筋についても、肥田医師は回答した。
「大変難しい問題ですけれど、アメリカの国内の医師や学者にも同じことを思っている方がたくさんおられます。現在のアメリカの政治情勢では、この方たちは黙らされて、出す本も売れない状態になっているのですが、アメリカの国民のなかの核兵器に対する反対勢力は同じくらいあります。これが結束して、アメリカの世論を変えていくなかで、いま沈黙している医師や学者は必ず私たちと一緒になっていく。特に英国の学会はアメリカから完全に離れて内部被曝を危険とみなす考えに変わってきています。ですから国際情勢はたいへん厳しいけれど、一歩一歩事実に基づいたところに足をかけはじめている。私はこの動きに大きな希望をかけています。そして、日本のなかの良心を持った学者たちをできるだけ掘り起こして、力を作りながら世界の世論にしていくことが大事で、できないことではないと思います」。
そして、記者からの「日本国民全員は内部被曝をしている状況と自覚したほうがいいのか。その上で、個々の免疫力の差によって生きながらえる方法を選ぶという状況なのか」という質問に対し矢ヶ崎氏は、現在空気中の放射能の埃を通じて日本が汚染される局面はかなり低くなっている、とする見解を示したものの「食べものの中に放射性物質が入り込んで、これが日本の極めて迅速に働く流通機構により日本を覆い尽くしています。ですから依然日本中の住民が汚染されるという危機に瀕している」と警告。続いてこの問題に対し肥田医師は次のように答えた。
「どうしたらいいかということについて専門家の方々は口を揃えて『原発から遠くへいけ』『汚染された疑いのあるものは口にせず、必ず大丈夫だというものを手に入れて食べろ』、このふたつが安全な道だということをおっしゃる。確かにその通りなんですけれど、外部であれ内部であれ被曝したことは日本中みんな間違いないんです。
実際に福島のいろんな方に会ってみると、遠くへ行けない人はどうしたらいいのかを聞きたいというんです。それがあまり強いものだから、私は自分の経験から、放射性が原因になって病気になって、それで命を取られるんだから、病気を起こさないように我々の生活を工夫しようじゃないかという運動を起こしたんです。そのなかには昔から言われる『腹八分目で飯を食え』とか、早寝早起きがいいとかいろいろなものが出ますよね。そのひとつひとつを点検して20年くらい全国で論議をした結果、これがいいというのがひとつの柱ができたんです。
ほんとうにバカバカしいようなことだけれど、我々の祖先が免疫を作ったときの条件は、灯りもなければ熱もなく、太陽以外のエネルギーを持たなかった。その状態を壊さないために、太陽と一緒に起きて、太陽と一緒に寝るという規則正しい生活をするのがいちばんいいんじゃないかということになって、何万という人間が実際にやったんです。その結果、いま80過ぎ、90過ぎの被曝者が生き残っている。だから、道は遠いようだけど、みんなに誰でもができることですから、まずそこから話をはじめよう。被曝者が具体的に行い、ひとりひとりが命を守って今日まできたことなので、これはやはり現在福島で被害に遭っている方が参考に聞いたほうがいいだろうと。なので私はあちこちで話します。そうすると、他に対策が何もないものだから、『たったひとつこれがあればなんとかなるという希望がひとつできた』と言ってみんな喜んで帰っていく。それほど行き詰まって、どうしたらいいかわからない。だから私はそうした努力をみんなでしていくべきだろうと思っています。誰か偉い人がパッと教えてなんとかなるという状況じゃないのです」。
「市民と科学者の内部被曝問題研究会」は現在の日本での低線量の健康リスクに焦点を当て、科学的に事実に即して内部被曝の研究を市民と協力して人々に伝え、世界の基準を変えていくことを目的に活動を行っていく。
また、今回会見を行った肥田舜太郎医師の活動を追ったドキュメンタリー『核の傷』が、3月中旬より公開される予定となっている。