考・原発 私の視点 宮台真司 「地域独占のゆがみ正せ」
(2012年2月8日 西日本新聞1面)
野田佳彦首相は昨年12月に福島第一原発事故の収束を宣言。政府は、原発政策の中長期的な方向性を示さず、民意を問うこともないまま、海外向け原発ビジネスを再開し、原発再稼動の準備が進む。
「日本は合理性に従った決定ができないシステムになっている。民主主義が多数決のことだと勘違いされている。みんなで決めたことは大抵間違いないと。そこにボタンの掛け違いがある。『引き受けて考える社会』であるべきなのに、日本は『任せて文句を言う社会』になっている。任される側の政治家や官僚は、科学や知識を尊重するのでなく空気に縛られる。これでは合理的な決定を生み出すことはできない」
「原発をやめることより、原発をやめられない社会をやめることの方が大事だ。原発の立地、開発にものすごい資金をつぎ込むことに合理性はない。原発が維持されてきたのは技術的、政策的に合理的だからではなく、電力の独占体制の維持に都合がいいからにすぎない」
戦後一貫してきた電力10社による地域独占。一般利用者は電源や電力会社を選べず、再生可能エネルギー導入遅れの一因になった。
「地域の経済団体のボスは例外なく電力会社のトップが務めている。自民党は経済団体、電力会社の言いなりだし、民主党は労働組合と結び付いて文句を言えない。地域の政治、経済、文化すべてを電力会社に依存している。民主主義がうまく回るためには政治にしろ、経済、社会にしろ、独占はまずい。独占企業体の利益が優先され、異論が言えなくなるからだ。それなのに、日本では電力会社依存に文句が出ない。日本の社会が民主主義社会ではないことの表れだ」
「電源をどうするかは、国が決めるのではなく、自治に任せればいい。個人、家族、事業者、地域、自治体が決める。安い電源を選ぶところも、コストが高くても再生可能エネルギーを選ぶところも出てくる」
原発の是非を投票で決めたいという活動が全国に広がる。電力大消費地の東京、大阪で市民グループが住民投票の条例制定を求める署名集めを実施。大阪市では手続きに必要な署名を確保し、請求代表人として関わる東京都でも30万人分を目標に署名集めが続く。
「署名集めを通して感じるのは、原発事故を忘れたがっている人が多いということ。政府の収束宣言で、空気が変わった。まだ原発のこと言ってるの、みたいな。第2次世界大戦も、勝てるわけがないとみんな分かっていたのに、極東裁判(東京裁判)で罪に問われた指導者は『今更辞められない』『空気にあらがえない』と口をそろえた。それと同じ。空気に流され、自分で考えようとしない」
「住民投票を広げ、最終的には国民投票の実施を目指している。代議制の欠陥は、議会が既得権益者の”手打ち”の場所になること。本質を議論せず、議会内の勢力配置で落としどころが決まってしまう。住民投票、国民投票が決まれば、学習して民度が上がる。そうなれば、議会も単なる手打ちでは済まなくなる。議会に緊張感を与えることもできる。それが日本の政治文化を変えるきっかけになる」