「日本は災害瓦礫処理でも『焼却主義』の大愚」 青山貞一

がれき受け入れ問題:黒岩知事が現行案撤回、地元拒否で「ほかの知恵を」/神奈川
(2012年2月17日(金)23時40分配信 神奈川新聞)

県最終処分場(横須賀市)への震災がれき焼却灰の受け入れ問題で、黒岩祐治知事は17日、「前に出した提案は撤回せざるを得ない。同じことを繰り返しお願いすることはない」と述べ、現行の計画をいったん撤回する意向を表明した。一方で「何らかの形で受け入れたいという思いは変わっていない。ほかの知恵を出さなければいけない」とも述べ、引き続き受け入れを模索する考えを示した。

処分場周辺町内会から撤回を求める要請を受けた後、県庁内で記者団に述べた。

また同趣旨の要請を受けた吉田雄人横須賀市長は、受け入れを拒否する姿勢を鮮明にした。

撤回要請は周辺10町内会でつくる大楠連合町内会(長谷川俊夫会長)の総意として提出。県と協定を結んでいる芦名町内会も名を連ねている。

要請書は放射性物質に対する処分場の管理・除去能力や農水産物への風評被害などを問題視。「被災地支援の思いは同じだが、子どもたちの未来に不安を残す選択はできない」として、計画の撤回や芦名町内会と結んでいる協定書の改訂断念などを求めた。知事の唐突な受け入れ表明や記者会見での発言も批判している。12日付の決議文も添えた。

長谷川会長ら6人が県庁を訪れ、非公開で約40分間、知事らと会談した。

知事はその中で、発言に対する反省のほか「地元にじっくり話す機会を逸して申し訳ない」と陳謝したという。

会談後、知事は記者団に、撤回の対象について「(放射性セシウム濃度が)1キログラム当たり100ベクレル以下などと説明したパッケージ」と表現。搬入物の条件を見直す考えを示唆した。一方、長谷川会長は今後の県との話し合いについて「百パーセント拒否ということはない。知事の気持ちを聞くことはやぶさかではない」と述べ、県側の新たな提示内容次第で協議に応じる姿勢を示した。

連合町内会はその後、横須賀市役所で吉田市長に面会。吉田市長は、受け入れ拒否の姿勢かとの記者団の質問に「地元に寄り添うとはそういう趣旨」と述べ、早い時期に知事と面会したい意向を示した。

日本は災害瓦礫処理でも「焼却主義」の大愚
青山貞一 東京都市大学大学院
(2012年2月19日 独立系メディア E?wave Tokyo )
         
 3.11の東日本大震災・津波とそれに続く福島原発事故は、私たち日本国民にとって、いまだかつてない多くの問題を突きつけてきた。とりわけ前代未聞の原発事故がもたらした放射性物質に汚染された災害廃棄物の国による広域処理推進の方針は、現在、日本の津々浦々の基礎自治体であらたな問題を引き起こしている。

 周知のように、3.11直後から国や東京電力は、「想定外」という言葉を乱発し「千年に一度の自然災害」を強調してきた。しかしながら、歴史をひもとけば誰でも分かるように、比較的甚大な津波ものだけをとっても、次のようなものがある。

  869年 貞観三陸津波
 1611年 慶長三陸津波
 1896年 明治三陸津波
 1933年 昭和三陸津波
 2011年 東日本大震災・津波

 このように我が国では、千年に一度ではなく、百年に一度は類似の大震災や津波が三陸及びその周辺地域で起きてきたと言える。国や東京電力がことさら千年に一度あるいは想定外を繰り返すのは、その後の国家賠償や民事の損害賠償の免責をねらうレトリックであることは容易に分かるというものだ。

 ところで筆者らは3.11の大震災以降、昨年末までに都合9回、被災地を現地調査してきた。また福島県にも6回、放射線測定ででかけた。そこで見たこととして、「3.11」が過去の震災・津波と明らかに異なるのは、災害廃棄物(以下単に瓦礫)の量と質のすさまじい多様さにある。

 福島県を中心に被災地の瓦礫にはコンクリート片、木材等の建材、プラスチック類、金属類、生ごみ(魚類、水産加工物等)、油類など、まさに現代経済社会を象徴そして反映する多種多様なものが含まれている。

 初期段階での環境省調査によれば、内訳は可燃ごみ(柱、壁、家具)23%、不燃ごみ(コンクリート等)66%、不燃ごみ(金属くず)2%、不燃ごみ(家電等)4%と報告され、本来その多くは家庭から出る一般廃棄物として処理されるものである。

 だが現地を子細に調査すると、多くは産業廃棄物の様相を呈している。加えて問題解決を複雑かつ困難としているのは、福島原発事故により周辺に移流、拡散、飛散し沈降した大量の放射性物質が瓦礫、下水汚泥、浄水発生土、通常の焼却炉の焼却残渣(主灰、飛灰など)に高濃度に濃縮され含まれていることである。

 これら瓦礫の量は太平洋沿岸域で2011年8月30日現在、岩手508万t、宮城1,584万t、福島228万t、青森22万t、茨城50万t、千葉12万tと実に2,400万トン超に達しており、その後も増え続けている。平成21年度の日本の一廃の年間排出量が4,625万tなので瓦礫の総量はその半分に相当する。

 さらに、実際には上記に加え膨大な数の船舶、自動車などの廃棄物もある。また保管されていた農薬類、PCBを含む化学物質、重油・石油・ガソリンなどの燃料・油類が津波で流出し、海水と共に瓦礫に付着ししみ込んでいる。また古い建築物が破壊され、そこからアスベストが流出している可能性も高い。川や海の底質から高濃度の砒素が検出されているという調査報告もある。

 もともと日本は人口で約4倍、面積で約40倍の米国よりも廃棄物の焼却量が多く、先進諸国のなかで飛び抜けた「焼却主義」をとってきた国である。こうした多種多様な汚染物質が渾然一体となった災害廃棄物を通常の一般廃棄物と同様に全国各地の基礎自治体で焼却処理そして処分することには極めて問題が多い。

 歴史を見れば明らかなように、先進諸国はゴミを燃やせばダイオキシン類などの有害物質が生ずるとして早くからゴミの焼却量を減らし、厳しい規制基準を制定してきた。しかし、日本はと言えば、1999年に起きたいわゆる所沢ダイオキシン大騒動に至るまで法規制をせず、ゴミ処理を優先しまさに野放図としてきた。

 いうまでもなく、瓦礫を焼却すれば、飛灰、焼却灰、煙、下水に、浸出水などに放射性物質が濃縮されて残る。

 もとより、廃棄物の焼却は、焼却しない場合と比べて非意図的な有害化学物質が多数生成される。この研究分野の国際的第一人者である宮田秀明大阪工大教授(元摂南大学薬学部教授)によれば、プラスチックを含む廃棄物を焼却すれば、「短時間で1種類の化合物から千種類もの非意図的物質が生成される」と述べている。

出典:プラスチック焼却の問題点、宮田秀明摂南大学薬学部教授
    (現在、大阪工業大学教授)

出典:プラスチック焼却の問題点、宮田秀明摂南大学薬学部教授
    (現在、大阪工業大学教授)

 同様のことをゴミ弁護会長の梶山正三弁護士(理学博士)も東京都日の出町広域最終処分場に関して東京地裁八王子支部で開かれた行政訴訟の公判で述べている。さらに、この分野で

 このようにさまざまな物質が付着、混ざった災害廃棄物を被災地から各地の市町村の焼却炉で安易に焼却処理することは、セシウム137などの放射性物質のみならずダイオキシン類などの有機塩素系化合物、多環芳香族炭化水素類(PAH)、水銀など重金属類、また、がん発生との因果関係が明確となっているアスベストなどを未汚染地しかも人口の超密集地域に広め新たな問題を作り出すことになりかねない。

 またライフサイクルアセスメント(LCA)を用いた残飯はじめ下水汚泥など有機廃棄物の処理方法毎の環境負荷比較でも、焼却処理が最も環境負荷が高いという東京都市大学大学院環境情報学研究科湯龍龍氏(現在博士課程)の研究論文がある。

 さらに温室効果ガスに関して、日本政府は京都会議(COP3)以降、廃棄物焼却由来の二酸化炭素を総負荷量から除外しているが、焼却した場合は、しない場合に比べ二酸化炭素の排出がかなり増えること、また有機物を堆肥化した場合に発生するメタンガス量を考慮したとしても、廃棄物の焼却による温室効果ガス量が多くなるという東京都市大学大学環境情報学部環境情報学科の佐藤直樹氏の卒業研究論文もある。

 このように、国がさしたる根拠もなく、放射能レベルが低いことのみを理由に瓦礫を広域処理しても問題ないと結論づけたことは、熱力学第二法則など物理学の原理からしても過ちであると言える。また放射性物質が最終的に海に流れ込めば、食物連鎖、生物濃縮により魚介類が高度の汚染されることを知らねばならない。

◆青山貞一: 福島原発事故で、本当に怖いのは魚介汚染 You Tube

 にもかかわらず環境省は2011年5月以降、非公開の「災害廃棄物安全評価検討会」を重ね、途中からは議事録も公開せず、さらに最新の情報開示では環境省は議事録もつくっていないと情報開示請求をしている鷹取敦氏に通知している。その上で、さしたる根拠なく広域処理を正当化してきたことはきわめて遺憾であり、およそ民主主義国家にあるまじき行為であると思える。

環境省「災害廃棄物安全評価検討会」委員名簿

井口 哲夫
 名古屋大学大学院工学研究科教授
大垣 眞一郎(座長)
 独立行政法人 国立環境研究所理事長
大迫 政浩     
 独立行政法人 国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センター長
大塚 直
 早稲田大学大学院法務研究科教授
酒井 伸一
  京都大学環境科学センター長
杉浦 紳之
 独立行政法人 放射線医学総合研究所緊急被ばく医療研究センター長
新美 育文
  明治大学法学部専任教授
森澤 眞輔
  京都大学名誉教
出典:環境省公式Web

 これについては、環境総合研究所の鷹取敦調査部長による一連の論考を見て欲しい。科学的根拠がない、あるいは乏しいことを無理矢理強行しようとするから国の検討会を非公開にし、議事録を出さず、あげくの果ては録音をせず、議事録をつくっていないなどと鷹取氏の正規の開示請求に「堂々」と回答してきているのである。

 まさに設置、委員選任などまったく正当性がない検討会が、非公開できわめて重要な事項を審理し、その結果を細野大臣らが国民や基礎自治体に押しつけるという、民主主義国家であるまじき対応、態度である。

◆鷹取敦:議事録作成をやめた「災害廃棄物安全評価検討会」
◆鷹取敦:環境省への議事録開示請求の経過報告(2012/02/17現在)
◆青山貞一:立法府が本来の機能を取り戻すために You Tube

 最後に、毎年冬、スイスで開催されている通称ダボス会議、世界経済会議で今から10年前、米国のエール大とコロンビア大が世界各国の「環境保全力ランキング」を公表した。

 日本は何と62位であった。エンド・オブ・パイプあるいはバック・エンド・シンキングと呼ばれるように、日本は本質的な問題解決をせず、巨額の税金と巨大な装置(技術依存)で事後処理的に焼却に依存し対応してきたこと、すなわち何でもかんでも燃やして埋めるの愚をしてきたことが、現在の国の苦境に繋がっていることを厳しく反省しなければならない。

 さらに環境省の検討会を非公開にし、議事録を公開しないことで分かるように、そこにいる委員はおよそ科学者や研究者に値しないだろう。

 ひとことでいえば、この検討会はどうみても非科学的なことを国民や住民に押しつける、いわば政治家がすることをしているのである。こんな環境省に原子力規制庁を設置しても到底国民の理解など得られるはずもない。
 
 環境省の前身、環境庁(当時、総理府)は、もともと人材不足で各省庁からの出向が幹部を占め、いわば他省庁の植民地であった。しかし、人材不足、力量不足は今まででも変わっていない。

 その環境省やつくばの研究所(国立環境研究所)は、3.11以前は、法的にだけでなく研究や実務面でも無関係だった環境省が、誰が見ても経済産業省の暴走をとめられるはずもない。これはまるで自民党から民主党に政権が移っても政治主導も利権構造も変わらなかったことと酷似している。

 結局、新設される環境省の原子力規制庁は、人材の多くを経済産業省、その独立行政法人はじめ「原子力村」に依存せざるを得ず、巨額をかけても肝心なときに何一つ役に立たないSPEEDIと同じ運命をたどるだけだ。元も黙阿弥である!

 せめてトップを米国の原子力規制委員会(NRC)のヤッコ氏のように民間からの政治任用とすればと思うが、それも期待薄である。

 いずれにせよ、上述のように原理的に間違ったこと、すなわち世界に類例のない廃棄物をもやし埋め立てる危険きわまりない「焼却主義」をとり続ける環境省に将来はないだろう!

原子力規制庁、独立果たせず?経産省と「同居」
 (読売新聞 2012年2月7日)

 環境省は、4月に同省の外局として発足する原子力規制庁について、経済産業省別館で業務を始める方針を固めた。原子力安全・保安院の看板を掛け替える。原子力行政を推進する経産省から移転し、規制官庁として、新たな場所での船出を印象づける狙いだったが、入居先選びが間に合わなかった。転居は早くても夏頃になりそうだ。

 原子力行政を推進する経産省と、規制する保安院が経産省内に同居し、互いに人事交流もあることが、東京電力福島第一原発事故を招いた一因と批判された。規制庁の大部分は、経産省から移転してくる保安院が占めることになるだけに、環境省は国民に独立性をアピールするためにも、新たな入居先を探した。

 その条件は、首相官邸に近く、十分な耐震性を備え、低層階に入居できること。さらに、規制庁の定員は約500人で、事故調査を担う原子力安全調査委員会も新設されるため、最低でも6000平方メートルの広さが必要になるという。これに合う有力な民間ビル候補が近くの汐留地区でいったん浮上したが、最終的にはまとまらなかった。

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