九州電力の「信頼回復に向けての取組み」

2012.3.5
九州電力の「信頼回復に向けての取組み」について
  
          九州電力第三者委員会 元委員長 郷 原 信 郎

 3月1日、九州電力ホームページ上に、「信頼回復に向けての取組みについて」と題して、「経済産業省主催の県民説明番組への当社社員による意見投稿要請等の一連の事象」についての信頼回復、再発防止策への取組みの内容等が掲載されました。

 この「信頼回復に向けての取組み」について、今回、ホームページに掲載された同「取組み」について、私を含め、行動を共にしてきた九州電力第三者委員会の元委員3名は事前に何の連絡も受けていませんが、同委員会の委員長を務めた者として、これまでの経緯を踏まえて、若干のコメントをしたいと思います。
 
 まず、結論から言うと、この「取組み」は全く評価できません。このようなものでは、九州電力の信頼回復には全くつながらないと思います。

 一連の問題による九州電力の信頼失墜の最大の原因は、発生した不祥事そのものよりも、不祥事に対する事後対応にあります。同社が自ら設置した第三者委員会報告書が指摘する問題の本質を受け止めず、調査結果に反論するなど佐賀県古川知事との関係で不合理な主張を繰り返し、第三者委員会が指摘した問題の本質を受け止めなかったことが信頼失墜の最大の原因です。

 昨年10月14日に同社が経済産業省に提出した最終報告書の内容が、第三者委員会報告書の都合の良いところを「つまみ食い」する内容だったことで、枝野経済産業大臣から厳しい批判を受けたものです。

ところが、同ホームページの「信頼回復に向けての取組みについて」の中の「経済産業省主催の県民説明番組への意見投稿呼びかけ等について」の冒頭では、「2011年9月30日、第三者委員会最終報告書を受領しました。当社はこの報告書を真摯に受け止め、2011年10月14日に、経済産業省へ事実関係と今後の対応(再発防止策)について報告書を提出しました。」と書いています。同社は10月14日の経産省に報告書を提出した時点から、「第三者委員会報告書の真摯に受け止めていた」ということなのです。

10月14日に枝野大臣に報告書を厳しく批判されたことも、九州電力自身が、12月22日に、改めて「第三者委員会報告書を真摯に受け止めます」という「紙切れ一枚」を改めて経産省に提出したことも、すべてなかったことにするということになります。

 また、「今回の一連の事象の根本的な原因」の中に、「経営トップ層の責任」という項目がありますが、ここで書いてあるのは、「経営層に責任があるとの第三者委員会の指摘を、経営陣は真摯に受け止めることが必要」というだけで、一体何を、どう受け止める必要があるのか全くわかりません。

 「規制当局や関係自治体等との関係性」の項目でも、第三者委員会報告書が問題の本質として指摘した「原発立地自治体との不透明な関係」という言葉は全く入っておらず、『より高い「透明性」を確保する仕組み等の検討が重要』と書かれているだけです。「より高い」というのであれば、これまでもある程度は「透明性」が確保されていたが、更に「透明性」を高めるという意味になります。第三者委員会報告書が問題の本質として指摘している「不透明性」は否定しているということです。

 また、この「原発立地自治体との不透明な関係」に関する提言で最も重要な点は、「首長との間で原発の設置、再稼働等の重要事項について不透明な形での話合いを一切行わないこと、」ですが、その部分は、九州電力の「取組み」からは、完全に除外されています。

九州電力の「信頼回復への取組み」では、第三者委員会報告書の提言と似たような言葉が並んでおり、一見すると、報告書をそのまま受け入れているように見えますが、問題の本質に関わる部分が巧妙に除外されていますし、そもそも、大前提となる、信頼失墜の原因になった自分達の行為のどこがどのように悪かったのか、という点についての認識が示されておらず、取組みの方向性が定まっていなければ、何を行っても意味がほとんどないのです。

 このような無意味な「信頼回復の取組み」にコストをかけるのは、原発停止による燃料費の負担増で膨大な経常損失を計上し、電気料金値上げによる利用者への転嫁を目論んでいる九州電力にとって、単なる「無駄遣い」でしかないと思います。

 一連の九州電力の問題に関しては、今月の18日に発売予定の拙著『第三者委員会は企業を変えられるか 九州電力「やらせメール」問題の深層』(毎日新聞社)で詳しく述べており、「あとがき」の中でで、九州電力の現状について、「眞部社長は、『第三者委員会報告書の提言は120%受け入れている』などと強弁していたが、少なくとも問題の本質に関わる提言については、実行する気配すらない。」と述べています。

 今回同社のホームページに掲載された「信頼回復に向けての取組み」を見ても、その点についての私の認識は全く変わりません。

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