原発のコストはどんどん高くなり、自然エネルギーは安くなっている

【原発の不都合な真実】インタビュー企画 「既得権益を排して民主的なエネルギー政策を実現するのか、過去の誤りを繰り返すのか、日本は今、岐路に立っている」トーマス・コーバリエル氏
(2011/10/18 21:24 47ニュース)から抜粋

先進的なエネルギー政策で知られるスウェーデンは、バイオマスエネルギーの活用などを進め、経済成長を遂げながら、温室効果ガスの排出も大きく減らしてきた。08年3月から、そのスウェーデンのエネルギー庁長官を務め、このほど、日本のソフトバンクの孫正義会長が設立した「自然エネルギー財団」の理事長に就任したトーマス・コーバリエル氏は、日本のエネルギー政策は今、大きな岐路に立っていると話す。

 ―スウェーデンの原子力政策はどうなっているのか。

 「スウェーデンでは1999年から2005年にかけて2基の原発を閉鎖した。現在の連合政権誕生時の合意で、古くなった原発をコスト高を理由に新しくすることは認めるが、新規の建設には一切、政府の補助はしないということになっている。事故後もこれは変わっていないが、新規原発建設の動きはない

 ―その理由は。

 「隣国のフィンランドは新規原発の建設を決めたが、09年に予定されていた完工は13年に延び、総工費も2~3倍になるとされている。原子炉のコストがとても高いということが最近、はっきりと認識されてきた。原子力が経済的に割に合わないということだ。誰も巨額の投資をしたがらず、誰も大事故のリスクを負いたがらない。原発の電力を好んで買う企業も少ない。事故があった時に責任を問われ、非難されるからだ

 ―原発閉鎖で二酸化炭素の排出量は増えたのか。

 「1990年以来、スウェーデンの経済は1・5倍に成長したが、排出量は約20%減っている。決め手となった政策は、CO2の排出量に応じて化石燃料に課税する炭素税の導入で、風力発電やバイオマスなどの再生可能エネルギーの競争力が高まった。現在、多くの国の産業が化石燃料価格の高騰で苦しんでいるが、スウェーデンの産業界は、ずっと以前から高い化石燃料価格に対応してきたので、今は強い国際競争力を持っている」

 ―再生可能エネルギーの現状は。

 「昨年、大型水力を含めた再生可能エネルギーで発電した電力量は、全消費量の55%強に達した。風力発電は予想を超えるペースで拡大し、価格はどんどん安くなっている。さまざまな企業が風力発電に投資をしていて、原子力とは対照的だ。バイオマス発電はスウェーデンの重要な成功例の一つで、石油や原子力の代替、温室効果ガスの排出削減、農業廃棄物問題の解決など多くの利点がある」

 ―日本への提言は。

 「エネルギー政策の改革で重要な点は、送電や配電事業を、発電事業から分離して市場をオープンにすることだ。これまで同様、巨大な電力会社が送配電網をコントロールするならば、新しい発電設備を電力網に接続することを難しくして、新しい参加者を市場から締め出すことを可能にしてしまう。これでは新たな技術の開発や新規参入が進まなくなり、電気料金も安くならない。補助金の廃止や、炭素税のように環境への悪影響を価格に反映させるといった経済的な手法も重要になる

 ―転換は可能だろうか。

 「国内の市場が育たなかったために、日本の再生可能エネルギー関連ビジネスは厳しい状況に置かれている。だが、日本の技術は一流だし、風力や太陽光の資源はデンマークやスウェーデンより豊かだ。各国が積み上げた多くの政策も大きな参考になる。既得権益を排して民主的なエネルギー政策を実現するのか、過去の誤りを繰り返すのか、日本は今、岐路に立っている」(聞き手・井田徹治)

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 トーマス・コーバリエル 1961年スウェーデン生まれ。物理学、環境経済学などが専門。バイオマスエネルギー関連企業などを経て2008年3月から、スウェーデン政府のエネルギー庁長官。この9月から日本の自然エネルギー財団の理事長に転身。


【原発の不都合な真実】原発は安価か? 建設コストは増加の一途  「リスク大きい」と格付け会社
(2011/12/01 19:13 47ニュース)から抜粋

 原発の新規建設への政府の支援を行わないことを決めたスウェーデンはもちろん、政府がさまざまな支援策を導入した米国や英国でも原発の新規建設が進んでいない大きな理由の一つは、原発の建設コストが年々、膨れ上がっていることがある。

 原発建設に投資をしようという企業にとって最も重要なものは初期投資、つまり原発の建設費であり、それがどれくらいの期間で回収できるかという問題である。現在、日本でも政府の委員会などの場で、原発の発電コスト、つまり1キロワット時の電気をつくるのにどれだけのコストがかかるかを再検討する作業が進んでいる。事故に備えた保険料や実際に事故が起こった時の対策費や除染の費用、風評被害などを含めた損害額など、どこまでをコストとして考えるべきかによってこれは大きく変わってくるのだが、過去に米国やフランスで行われたごく一般的な分析では、キロワット時の費用に建設費が占める比率は3分の2にも上るとされている。

 米国では数年前まで、業界側の試算を基に、原発の建設コストは1キロワット当たり4000ドル(31万円)とされてきた。100万キロワットの原発だと40億ドル(3100億円)ということになる。

 この研究のように貨幣価値を補正していないので、単純比較はできないが、日本の110万キロワットの原発でも、1979年に臨界に達した東電福島第一原発の6号機の建設コストが1750億円、キロワット当たりでは16万円弱であったのに対し、2005年に運転を開始した東北電力の東通原発の建設費は4280億円、キロワット当たりでは39万円近くになっている。公表されている建設費を出力で単純に割ると、中国電力島根3号機、北海道電力泊3号機、九州電力玄海3号機など、最近の原発のキロワット当たりの建設費は軒並み30万円を超えている。

 日本の場合、電力会社が必ずしも正確な建設費を公表していないので、正確なことは言えないが、1キロワット当たりの建設費はこのように昔に比べて増加する傾向にあり、最近では100万キロワット級の原発の建設費が4000億円を超えることもあるので、状況は米国やフランスと似たようなものだと考えてよさそうだ。

 だが、2008年に米国の信用格付け会社ムーディーズは、実際のコストはもっと高く1キロワット当たり7000ドル程度になるとの試算を示している。これは最新の石炭火力発電の2倍、効率がよい天然ガスのコンバインドサイクル発電の3倍という高さだという。ムーディーズが、原発開発を進める仮想の電力会社の財務状況などを想定した格付けシミュレーションも行った。原発建設に積極的な会社は、建設費の出費がピークを迎える建設開始5~10年後に、資金繰りが厳しくなるなどして、格下げの可能性が出てくる、というのがその結果だった。

 実際の電力会社の格付けを調べても、原発建設を進める電力会社の格付けが下がっていることも判明した。ムーディーズは「原発建設への投資は、企業の格下げの要因となりうる」と分析。「新規原発建設をしようとの企業について、われわれはネガティブな立場を取るようになっている」と明言している。巨大な投資が必要で、完成までに長期間を要し、多くの場合、当初の見込みよりも費用が高くなることが多い新規原発への投資に、投資家が二の足を踏むのが理解できる。(続く)


【原発の不都合な真実】「原発の負の学習曲線」と太陽光発電の「正の学習曲線」?両者の帰趨は既に決している
(2011/12/09 20:38 47ニュース)

 グラフは、米バーモント大学の研究グループが09年6月に発表した報告書からのもので、過去の原発建設に実際に要した費用や当時の建設費の見積額などをまとめている。実際の建設費がキロワット当たり9000ドルに上るものもあることが分かる。2000年以降は、実績ではなくさまざまな研究機関や業界、投資家などが行った将来の原発の建設コストの試算値で、機関によって幅があるが、場合によっては10000ドルを越えるとの試算もあることを示している。

 多くの産業部門では、業界が発展し、経験を積み、関連技術も進歩するのとともに、一定の業績を上げるのにかかる費用は低減していくのが普通だ。これは「コストの学習曲線」などとも言われる。だが、原発の場合、グラフから分かるように、年を追えば追うほど、総容量が増えれば増えるほど、1キロワット当たりの発電容量に対するコストが増えていることが分かる。米国の専門家はこれを「原発の負の学習曲線」と呼んでいる。原子力のコストがなぜ、これほどまでの「負の学習曲線」を描いているのかについては諸説あるのだが、経験を積めば積むほど、放射性物質の管理や安全対策などにコストをかける必要が次々に生じてきたことが大きな要因であることは否定できない。

 対称的に「正の学習曲線」を描いて、コストが着実に下がっているのが太陽光発電である。コストが増える一方の発電技術と、下がる一方の技術があれば、やがて前者は後者に追い越される。

 米国の環境シンクタンク「ワールドウオッチ研究所」の報告書が示している米国における原発のコスト(オレンジ色)と太陽光の発電コスト(緑色)の推移を示したグラフは、両者の「歴史的な逆転」が2010年ごろに起こり、今後、その差はどんどん大きくなっていくと予想されていることを示している。

 しかも、これらの分析はいずれも東京電力福島第1原発の事故より前のものである。事故後に必要になるさまざまな安全対策が原発の建設コストをさらに高騰させることは確実で、リスクが高まった原発建設への投資意欲がさらにそがれることになるのは確実だ。

 一方で、事故を受けて各国が再生可能エネルギー開発にさらに積極的に取り組む姿勢を示し、太陽光発電などの価格がさらに低下することも確実だ。原子力産業と再生可能エネルギー産業。両者の帰趨は既に決していると言える。

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