先週、関東から東北(福島から青森の「東北あしたの森」まで)各地をまわってきました。東北あしたの森では、今夏、福島の子どもたちを招いて、森と野原と湖で思いっきり遊んでもらい、畑や田んぼで農作業をしたり、馬や山羊の世話を少し体験してもらおうと思っています。
今回の旅は、福岡空港から羽田空港を経て、東京の日暮里にあるコレクティブハウス「かんかん森」の住人との久しぶりの再会から始まりました。2003年に日本初の多世代型コレクティブハウスとして創立された「かんかん森」には、大家族のようなコミュニティがあり、0歳から86歳までの約40人が暮らしています。今回の宿泊でも、懐かしい方々に暖かく出迎えていただきました。大震災と歴史的な原発事故を経験している日本では今、コミュニティの重要性が再評価されています。
翌日は、栃木県の那須にある「非電化工房」で環境発明家の藤村靖之さんと会って、原発事故の放射能から子どもたちを守る活動について意見交換してきました。藤村さんは「NPO法人那須希望の砦」という活動を地域住民と共に展開していますが、その中で“国の除染費用負担を求める要望署名” という署名活動も行っており、「年間追加被ばく線量1ミリシーベルト以上のところは全て国の除染費用負担として進める事」を要望しています。
(国に除染費用全額負担求め 那須の市民団体 署名3万3000人超)
栃木の次は、福島の猪苗代で友人たちに会い、今後の「子どもたちこと」を相談してきました。その福島で、『だいすき』という無料の雑誌を読んでいたら、放射能に関する特集記事がありました。「市民による市民のための測定所」が県内6ヵ所に設立されたという記事や「銀河のほとり」というお店では、店内の放射能測定器で測定した食材を使って料理を提供しているといった記事が出ていました。
「この冊子はいいなあ」と思っていたら、次ページに「野呂美加さんに聞く」というインタビュー記事がありました。昨年6月、福島県伊達市のイベントで共に講演し、対談した美加さんの「風評被害」と「予防原則」という話や「保養が心身に及ぼす効果」など、今、福島の人たち(特に子どもたち)にとって非常に重要なことが書かれてありました。その記事を、郡山から福岡に、幼い子どもと共に避難してきた友人が書き起こしてくれました。
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福島県郡山市を中心とした地域情報誌「だいすき」 2012.3月号(VOL.132)より
(季節に合わせた内容と美容・グルメ・温泉の情報提供)
NPO法人チェルノブイリへのかけはし代表 野呂美加さんに聞く
福島第一原子力発電所の事故より一年が経とうとしています。今後のこの地で住み続けたい私たちは、どのような生活をしていけば良いのでしょうか。NPO法人「チェルノブイリへのかけはし」にて長年チェルノブイリの子供たちと接してきた野呂美加さんにお話を伺いました。
NPO法人チェルノブイリへのかけはし代表 野呂美加さん
1992年結成された母親たちのボランティア団体。チェルノブイリ原発事故で汚染された地域に住む小学生たちを1か月間日本に招待し、19年間で648名の子供たちを招待してきた。(福島原発事故により昨年より保養は休止。)
https://www.kakehashi.or.jp
◆「風評被害」と「予防原則」
昨年、放射能による汚染で被害が報道されるたびに「風評被害」という言葉が使われました。放射能は見えないから、みんなが疑心暗鬼になります。しかし、事故から1年が経過しようとしています。もうそろそろ冷静に放射能の対策に取り組むことを考え始めてもいいのかと思います。実は「風評被害」の反対語は「予防原則」といいます。
チェルノブイリで子供たちに起こった悲劇はまさに「予防」を怠ったからにほかなりません。私たちが事故のあと6年後に汚染地域に救援に入った時、ちょうど小児甲状腺ガンが多発し始めたときでした。
このときは、小児甲状腺がんの原因はまだ「放射能のせいではなく、ヨード不足の風土病」とIAEA(国際原子力機関)は診断していて、救援活動が遅れ、彼らがそれを放射能が原因であると認めたのは事故から10年経ってからだったのです。それまで人々は汚染された食べ物を子供たちに食べさせ続けていました。
放射能に汚染されたものを食べたり、吸い込んだりする「内部被ばく」はどのようなレベルであれ子供には後遺症を残しますので、世界中の30カ国以上にわたる救援グループが、「子供たちをたとえ1カ月でもいいから、放射能から切り離そう!放射能からの夏休みをプレゼントしよう」と海外保養運動が始まりました。
◆保養が心身に及ぼす効果
保養をすると、1ヵ月~45日くらいで放射能の排出力が高まります(個人の新陳代謝の差によって違います)。そのため、「予防原則」で子供たちを保養に出そうという活動が事故から25年経過した現在でもイタリアやドイツ、スペインなどで継続されています。海外に出るだけではなく、国の責任で子供たちは、国内の保養所にも1ヵ月ずつの滞在で年に2回、学校ごとに避難させ、そこで医療的なチェックを定期的に受けたり、汚染のないものを食べさせています。
私たちの里子たちに甲状腺ガンがでていないと言うのも、もしかしたらこの予防原則のおかげではないかと私は思うことがあります。夏に汚染地域に行っても、子供たちはもぬけのからで、誰にも会えないほどです。学校ごと、施設ごとに招待されています。
また、汚染された地域から離れることが子供のためになるもう一つの大きな理由は、心の抑圧から解放されることだと思います。被災地域にいると、家族や大人をおもんばかって、不安な気持ちや身体の具合の悪いところを隠していたりします。
そういう意味で、まったく違う環境で子供たちが心身ともに解放され、身近な大人たちに相談したり「放射能を忘れる時間」を持つことがとても大事です。「精神的健康」というのは、「気にしない」ということではなく、「気にしている」自分を認めて前に進むことが前提です。不安を感じている自分を、気にしていないと思いこませることは、精神的な病の原因につながります。
◆効果的な食事療法
最後に、発酵食品や新鮮な果物、野菜や微量ミネラルの含んだものを毎食食べてください。発酵したものにはビタミンやミネラル、アミノ酸などが多数含まれています。ベラルーシの科学者たちは、子供を保養させるときには「『新鮮な』ビタミンやミネラルをたくさん食べさせて」と言っていました。
それは傷ついた細胞や遺伝子を修復させる酵素が働くときに必要な栄養だとしていました。彼らは米ソ核実験によるデータをもとに子供たちに特製のビタミンを配っていました。保養では私たちは子供たちに果物や野菜をたくさん食べさせました。
たった1ヵ月で、伸びなかった身長が3~4センチ伸びる子もいたり、体重が増え始める、髪の毛が伸び始めるなど目に見えて子供たちが元気になっていくのを見続けて、この活動は人々の募金で19年間も続いたのです。日本の伝統食である漬物や味噌汁はまさに消化酵素を補い、多数のビタミンやアミノ酸などを提供してくれる宝です。
大人にとっても健康診断は必要です。国家の責任で毎年1回、ホールボディーカウンターで体内の汚染値を把握しチェックをしてもらったり、保養に出ることはとても大切です。それはベラルーシの人たちが健康を保つために行ってきた制度です。
口先だけで、「大丈夫」と言う期間も過ぎました。それを制度にしていくことが大人の役割です。避難を個人で考えるとつらくなりますが、市町村単位での保養所を持ってもらい、つらくなったらいつでも保養できる場があると、そこへ行ってもさみしくないです。母親たちを納得、安心させるための、新しい制度の創設を願ってやみません。
※微量栄養素:たとえばセレンや亜鉛などのミネラル類。錠剤などで摂取すると不自然にとりすぎることになりそれもまた問題になるので、食物からとってください。
放射能に気をつけるポイント
1.食べ物、水などからの内部被ばくに気をつける
2.家の中を徹底して拭き掃除
3.カテーンはこまめに洗う
4.家の外での靴の泥を落とすことを徹底する
5.外套や仕事着など放射能が付着していると思われるものを家の中に持ち込まない
6.心配、恐怖、そうした気持ちをごまかしたり、おしこめたりせずにオープンにできる場をつくること
7.定期的に放射能から離れる(1週間でも、1ヵ月でも)
<転載以上>
【だいすき読者から寄せられたアンケート結果を公開しました】読者アンケート結果と、テーマ:「震災を経験して思うこと」についての
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