チェルノブイリを超える大気中への放出量
アーニー・ガンダーセン著 『福島第一原発―真相と展望』
(2012年2月22日発行 92~95ページから転載)
福島第一原発事故では放射性物質の多くが海に向かいました。海は陸地と違って沈着量から放出量を推測することができません。したがって、原発に残った核燃料の総量がわかるまでは、どれだけの放射性物質が放出されたのかは不明なのです。
東電は「チェルノブイリより被害が少ない」などと主張していましたが、彼らの数字はあまりにも誤魔化されていて、漏洩した放射性物質はチェルノブイリの5~10倍だったとしてもおかしくありません。私の予想は2~5倍ですが、原子力安全委員会と原子力安全・保安院は10%だと言っていました。(2011年4月12日会見)。
そもそも、当時も今も放射性物質の漏洩は止まっていません。彼らの試算は、炉心の放射能が圧力抑制室へ行き、水に取り込まれる設計に基づいていました。アメリカの規制ガイドラインによると放射能の99%は水に溜まっている計算です。ただし、これには水が沸騰していないという前提があります。福島第一原発は冷却機能を失い、水が沸騰したため除染係数がなくなりました。つまり、1対99(逃げた割合:残った割合)から99対1になるのです。水が沸騰していれば、入ってきたものは出ていきます。
にもかかわらず、東電は漏れた放射能を99%ではなく1%で計算していました。過去の経験から私には抜け穴が特定できます。それだけでなく、格納容器の漏洩も計算に入れていません。自分たちで発表した測定内容とも、航空機モニタリングの結果とも食い違っています。
チェルノブイリでは、ロシア政府が記録を抹消しようとしました。スリーマイルでも健康調査は1990年まで行われませんでした。10年以上が経過していたうえに、調査を命じた判事はレーガン大統領に任命されていました。信じられないことですが、判事は被害の最大推定値について、統計学的に有意な水準を1%でも超えていれば無効だと、あらかじめ忠告していたのです。唯一実施されたこの研究は、ノースカロライナ大学のスティーブン・ウィング博士によってのちに再分析されました。不完全かつ圧力をかけられた調査ですが、住民のがんが増加していることを示していました。しかし、公式に発表された放出量と合致しないため因果関係は否定されたのです。
長年にわたって事故を追った私は、NRCがどのように放出量を算出したのか突き止めました。公式な概算は1000万キュリーです。ベクレルに換算しなければなりませんが、少なくとも福島原発事故の100分の1です。1000分の1かもしれません。それはともかく、非常に難解な理屈が元になっていました。私は責任者を知っています。8基の放射能測定器が原発の敷地を取り囲むように設置されていました。そこで彼はそれぞれの記録値から放出量を割り出し、平均をとったのです。事故が起きてから間もないときで、誰も異議を唱えませんでした。それが絶対的真理となってしまったのです。
しかし実際の数値は100倍かもしれません。プルーム(放射能雲)が飛んだ方向次第では、測定器に当たらなかった可能性があるのです。要するに基本的な前提が完全に外れていました。ですからスリーマイルではNRCが認めるよりずっと多く、少なくとも1億5000、最大10億キュリーの放射能が漏れたのです。今回の事故でも東電の発表は控えめ過ぎると思います。
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アーニー・ガンダーセン(Arnie Gundersen)
1949年生まれ。原子力技術者、エネルギー・アドバイザー。レンセラー工科大学修士課程修了。エンジニアとして全米で原子炉の設計、建設、運用、廃炉に携わり、エネルギー省の廃炉手引き(初版)の共著者でもある。原子力業界の重役を務めた後に妻のマギーと設立したフェアウィンズ・アソシエイツ(Fairewinds AssociatesInc.)は、原子力発電に関する調査分析や、訴訟・公聴会における専門家としての意見提供を行っている。