その事件から2年後、当時サンパウロ大学で生化学と薬学を学んでいたテルマは、エステル・デ・カマルゴ教授の「中毒学」を受講した後、父カルロスに農薬の取り扱いに関する注意事項を事細かく書き込んだレポートを送った。
農薬の運搬と保存について
- 農薬散布時における人体保護機材として、手袋、長靴、自然ゴムでできた前掛け、帽子、長袖シャツ、防水性の作業着、防塵用マスク、保護眼鏡を必ず使用すること。
- 使用後、全ての機材はきれいに洗い、安全な場所に保管すること。
- 農薬説明書をよく読み、その指示に従うこと。
- 農薬の調合は密閉された室内で行わず、屋外で行うこと。農薬散布は風下に向かって行い、また、強風のときは行わないこと。
- 農薬が肌に着かないよう充分注意し、粉、あるいは噴霧液を吸い込まないようにすること。
- 散布後は、石鹸と水で手を洗い、その他の部分で農薬に触れたところもよく水洗いすること。
- 農薬のかかった作業着はただちに取り替えること。
- 農薬の詰まった噴霧穴を口に近づけ、息を吹き掛け掃除をしないこと。作業が終わったら必ず石鹸を使い、冷水のシャワーを浴びること。
- 農薬を包んだ紙や包装物は焼却すること。
- 農薬の入っていた缶やビンは穴を掘り埋めること。
- 散布時には仲間の作業者が近くにいないかよく確かめること。
- 作業中、あるいは作業終了後、農薬散布地に子どもや動物を近づけないこと。
このレポートを読んだカルロスは、「農薬の使用は生産者にとっても消費者にとっても自然環境にとってもよくない」と判断した。そして、まずジャカランダ農場で働くスタッフたちを危険にさらしたくないという理由から、1978年からコーヒーの耕作地における農薬の使用を減らし、2年を経ずして完全に停止させ、農道に繁る生命力の強い牧草の処理に使っていた除草剤も、1983年を境に全く使われなくなった。
目次
「ジャカランダコーヒー物語」
ブラジルにて「不可能」と言われていたコーヒーの有機栽培を丁寧な土作りと「いのちを大切にしたい」という想いから成し遂げたジャカランダ農場。農場主の故カルロス・フランコさんとジャカランダ農場の軌跡をお伝えします。
- 第1話.カルロスの祖先から
- 第2話.カルロス・フェルナンデス・フランコの誕生
- 第3話.幼年時代、豊かな自然のなかで
- 第4話.父イザウチーノのコーヒー栽培
- 第5話.カルロスの原風景
- 第6話.初恋
- 第7話.青年時代、ブラジルの大河に橋をかける
- 第8話.ジャカランダ農場主として
- 第9話.農薬の到来
- 第10話.次女テルマからのレポート
- 第11話.カルロスと農場スタッフ
- 第12話.福祉活動との関わり
- 第13話.コーヒーの有機栽培へ
- 第14話.リスクを背負って
- 第15話.ジャカランダ農場が受けた被害
- 第16話.本当の豊かさを求めて
- 第17話.「幸運」な出来事
- 第18話.水俣病との出会い
- 第19話.無農薬野菜の産直運動
- 第20話.チェルノブイリ原発事故
- 第21話.病に倒れて
- 第22話.ブラジル、遠く広く
- 第23話.想いを全て伝えて
- 第24話.有機栽培の意味を実感するとき
- 第25話.苦境を越えて
- 第26話.視線は地平線の遥か遠くまで伸び
- 第27話.コーヒー樹に囲まれた生活空間
- 第28話.コーヒー樹を見守り続けて 〜現場監督 ニーノの仕事〜
- 第29話.労働のなかの静かな祈り
- 第30話.コーヒー園に響く幼子の声と歌
- 第31話.ジャカランダコーヒーの生豆、60キロの重さ
- 第32話.老いてもなお
- 第33話.夏の草刈り
- 第34話.日が暮れて
- 第35話.ある雨の日の事故
- 第36話.土曜の夜、協会で
- 第37話.ジャカランダ農場、故郷として
- 第38話.写真でたどるジャカランダコーヒーの旅路 -土から生まれて食卓に届くまで-