ジャカランダ農場のコーヒーは農場に定住するスタッフたちの手により生産される。16人のスタッフの多くはジャカランダ農場で生まれ、その父、祖父たちもまたここで働いていた。カルロスにとって、農場のスタッフは家族同然であり、そこには農場主と労働者という枠組みを越えた関係が成り立っている。
カルロスの助手を務めるジョゼ・アイルトン(20)は、カルロスにこんな相談をしたことがある。当時、19歳のアイルトンは、日中はコーヒー栽培の仕事をし、夜になるとカルロスの援助により、マッシャード市の農業学校に通っていた。しかし労働の後では疲れて勉強に集中できず、結局「学校を辞めさせてくれ」とカルロスに申し出た。
「勉強は大切なことだから続けなさい」という応えがアイルトンに返ってきた。カルロスは、アイルトンがマッシャード市に寄宿して、学業に専念できるように手配し、彼が授業に出ている間の給料も保証した。
その理由について、「私もアイルトンの年令のときには、大学で勉強させてもらった。どうしてアイルトンもそれと同じことができないというのですか。全く当たり前のことをしているだけです」とカルロスは述べる。就学のチャンスを与えられているのはアイルトンだけではない。48歳のマリアーノ、30歳代のシーロやシルビオは経営学の講座を受講している。スタッフの子どもは全て小学校に通い、さらにその先の進学を希望する者にはその機会を与えられる。
カルロスはこう語る。「農場での仕事と生活に誇りをもってもらいたいのです。田舎だから、勉強ができないとか、生活が乏しいというふうに考えて欲しくない。私は彼らにできるだけ教育を受ける機会と、きちんとした家を保証したいと思います」
「ジャカランダコーヒー物語」
ブラジルにて「不可能」と言われていたコーヒーの有機栽培を丁寧な土作りと「いのちを大切にしたい」という想いから成し遂げたジャカランダ農場。農場主の故カルロス・フランコさんとジャカランダ農場の軌跡をお伝えします。
- 第1話.カルロスの祖先から
- 第2話.カルロス・フェルナンデス・フランコの誕生
- 第3話.幼年時代、豊かな自然のなかで
- 第4話.父イザウチーノのコーヒー栽培
- 第5話.カルロスの原風景
- 第6話.初恋
- 第7話.青年時代、ブラジルの大河に橋をかける
- 第8話.ジャカランダ農場主として
- 第9話.農薬の到来
- 第10話.次女テルマからのレポート
- 第11話.カルロスと農場スタッフ
- 第12話.福祉活動との関わり
- 第13話.コーヒーの有機栽培へ
- 第14話.リスクを背負って
- 第15話.ジャカランダ農場が受けた被害
- 第16話.本当の豊かさを求めて
- 第17話.「幸運」な出来事
- 第18話.水俣病との出会い
- 第19話.無農薬野菜の産直運動
- 第20話.チェルノブイリ原発事故
- 第21話.病に倒れて
- 第22話.ブラジル、遠く広く
- 第23話.想いを全て伝えて
- 第24話.有機栽培の意味を実感するとき
- 第25話.苦境を越えて
- 第26話.視線は地平線の遥か遠くまで伸び
- 第27話.コーヒー樹に囲まれた生活空間
- 第28話.コーヒー樹を見守り続けて 〜現場監督 ニーノの仕事〜
- 第29話.労働のなかの静かな祈り
- 第30話.コーヒー園に響く幼子の声と歌
- 第31話.ジャカランダコーヒーの生豆、60キロの重さ
- 第32話.老いてもなお
- 第33話.夏の草刈り
- 第34話.日が暮れて
- 第35話.ある雨の日の事故
- 第36話.土曜の夜、協会で
- 第37話.ジャカランダ農場、故郷として
- 第38話.写真でたどるジャカランダコーヒーの旅路 -土から生まれて食卓に届くまで-