1970年頃から化学肥料は、急速にブラジルの大地に浸透するようになっていった。
化学肥料を多用すると、最終的には土壌のバランスが崩れ、地力は衰える。そのためコーヒー樹は病害虫に抵抗できず、殺虫剤や殺菌剤の助けなくしては実をつけることもできなくなる。
しかし、化学肥料の投入により人工的に豊富な養分を与えられたコーヒー樹は、一時的ではあるが、安定した収穫を約束してくれる。ジャカランダ農場でも化学肥料は、カルロスの父イザウチーノの時代から使用されていた。
即効性のある化学肥料を使わずにコーヒーを栽培するためには、堆肥を施し、時間をかけて地力の豊かな土壌を培っていかなくてはならない。そして、その土作りの過渡期においては、大幅に収穫が減少する可能性が高かった。
農場への被害を軽減するために、カルロスは1993年から段階的な有機栽培への移行を試みる。
86ヘクタールの耕地を4つの地区に分け、1年を経るごとに有機栽培の地区を1つずつ増やした。そして1996年には全ての地区で有機栽培のコーヒーを生産することができた。
有機栽培を試みるなかで、カルロスが多くの時間をかけているのが土壌の分析である。86ヘクタールの耕地を22の地区に分け、深さ20センチまでの土を採取。それからは土壌分析の専門会社に送付し、土中に含まれる13種類の要素の含有量を分析する。その数値に応じて、それぞれの耕地に必要な堆肥の量、土壌矯正用の石灰の散布量、不足している養分の補給量を決め、年間作業計画のなかに組み込んでいく。
この他に、カルロスは現場監督のニーノと一緒に農場内を歩き、コーヒー樹を観察する。できるだけ多くの場所の葉や土に触れることは、農場全体の様子を把握するためには欠かせない。
「ジャカランダコーヒー物語」
ブラジルにて「不可能」と言われていたコーヒーの有機栽培を丁寧な土作りと「いのちを大切にしたい」という想いから成し遂げたジャカランダ農場。農場主の故カルロス・フランコさんとジャカランダ農場の軌跡をお伝えします。
- 第1話.カルロスの祖先から
- 第2話.カルロス・フェルナンデス・フランコの誕生
- 第3話.幼年時代、豊かな自然のなかで
- 第4話.父イザウチーノのコーヒー栽培
- 第5話.カルロスの原風景
- 第6話.初恋
- 第7話.青年時代、ブラジルの大河に橋をかける
- 第8話.ジャカランダ農場主として
- 第9話.農薬の到来
- 第10話.次女テルマからのレポート
- 第11話.カルロスと農場スタッフ
- 第12話.福祉活動との関わり
- 第13話.コーヒーの有機栽培へ
- 第14話.リスクを背負って
- 第15話.ジャカランダ農場が受けた被害
- 第16話.本当の豊かさを求めて
- 第17話.「幸運」な出来事
- 第18話.水俣病との出会い
- 第19話.無農薬野菜の産直運動
- 第20話.チェルノブイリ原発事故
- 第21話.病に倒れて
- 第22話.ブラジル、遠く広く
- 第23話.想いを全て伝えて
- 第24話.有機栽培の意味を実感するとき
- 第25話.苦境を越えて
- 第26話.視線は地平線の遥か遠くまで伸び
- 第27話.コーヒー樹に囲まれた生活空間
- 第28話.コーヒー樹を見守り続けて 〜現場監督 ニーノの仕事〜
- 第29話.労働のなかの静かな祈り
- 第30話.コーヒー園に響く幼子の声と歌
- 第31話.ジャカランダコーヒーの生豆、60キロの重さ
- 第32話.老いてもなお
- 第33話.夏の草刈り
- 第34話.日が暮れて
- 第35話.ある雨の日の事故
- 第36話.土曜の夜、協会で
- 第37話.ジャカランダ農場、故郷として
- 第38話.写真でたどるジャカランダコーヒーの旅路 -土から生まれて食卓に届くまで-