有機栽培を始めた1993年のこと。5.7ヘクタールの耕地に植えられた6000本のコーヒー樹の葉が黄色く染まった。コーヒーの実の外皮を原料とする堆肥の散布が遅れ、土壌の養分のバランスが崩れたことが原因だった。この年の収穫は大幅に減少し、その影響は翌年の収穫にまで及んだ。
コーヒー樹は非常に繊細な植物で、霜がくればすぐに枯れてしまう。1993年に起こった霜害は、ブラジル全体の収穫量を3割以上も減少させた。標高の高い所に位置するジャカランダ農場では霜が停滞することは少なく、深刻な被害はなかったが、低地に植えられたコーヒー樹のなかには霜枯れてしまったものがあった。
ときには天から氷の粒が落ちてくる。1996年の9月にジャカランダ農場を急襲した雹は、12.000本のコーヒー樹の花芽や葉を打ち抜き、地面へと叩き付けた。4年という歳月をかけて育ててきた有機栽培のコーヒー樹が、身ぐるみ剥がれた状態になるまで5分もかからなかった。被害を受けた4.5ヘクタールの耕地はたくさんの収穫を期待できる場所だったが、花芽を失ったコーヒー樹に実は付かず、この地区からの収穫はほとんどなかった。
目次
「ジャカランダコーヒー物語」
ブラジルにて「不可能」と言われていたコーヒーの有機栽培を丁寧な土作りと「いのちを大切にしたい」という想いから成し遂げたジャカランダ農場。農場主の故カルロス・フランコさんとジャカランダ農場の軌跡をお伝えします。
- 第1話.カルロスの祖先から
- 第2話.カルロス・フェルナンデス・フランコの誕生
- 第3話.幼年時代、豊かな自然のなかで
- 第4話.父イザウチーノのコーヒー栽培
- 第5話.カルロスの原風景
- 第6話.初恋
- 第7話.青年時代、ブラジルの大河に橋をかける
- 第8話.ジャカランダ農場主として
- 第9話.農薬の到来
- 第10話.次女テルマからのレポート
- 第11話.カルロスと農場スタッフ
- 第12話.福祉活動との関わり
- 第13話.コーヒーの有機栽培へ
- 第14話.リスクを背負って
- 第15話.ジャカランダ農場が受けた被害
- 第16話.本当の豊かさを求めて
- 第17話.「幸運」な出来事
- 第18話.水俣病との出会い
- 第19話.無農薬野菜の産直運動
- 第20話.チェルノブイリ原発事故
- 第21話.病に倒れて
- 第22話.ブラジル、遠く広く
- 第23話.想いを全て伝えて
- 第24話.有機栽培の意味を実感するとき
- 第25話.苦境を越えて
- 第26話.視線は地平線の遥か遠くまで伸び
- 第27話.コーヒー樹に囲まれた生活空間
- 第28話.コーヒー樹を見守り続けて 〜現場監督 ニーノの仕事〜
- 第29話.労働のなかの静かな祈り
- 第30話.コーヒー園に響く幼子の声と歌
- 第31話.ジャカランダコーヒーの生豆、60キロの重さ
- 第32話.老いてもなお
- 第33話.夏の草刈り
- 第34話.日が暮れて
- 第35話.ある雨の日の事故
- 第36話.土曜の夜、協会で
- 第37話.ジャカランダ農場、故郷として
- 第38話.写真でたどるジャカランダコーヒーの旅路 -土から生まれて食卓に届くまで-