こうした自然の被害を受けながらも、カルロスは有機栽培に取り組み続けた。「化学肥料を使わなくなって4年経った耕地の土壌には、たくさんの有機質が含まれている」とカルロスは土作りの手ごたえを感じている。
当初は、周辺の関係者も心配した有機栽培だったが、今日、ジャカランダ農場の有機栽培はいくつかの新聞にも紹介され、その実践を学ぼうと多くの見学者が訪れるようになった。
ブラジルの有機農業協会の会長ワンダレイ氏は、カルロスの人柄と仕事について「とても真面目で研究心の旺盛な方です」と語る。1996年、同協会の「有機コーヒー」としての認定条件を満たす栽培をしていたのは、ジャカランダ農場だけだったという。
「有機コーヒーの研究はこれからですが、この頃やっと生産に自信を持てるようになりました」と語るカルロス。「次に世代に豊かな自然と希望を残すことこそが本当の豊かさ」と考え、人と自然を大切にするその一貫した姿勢は変わることはない。
もう一つの物語
カルロスがコーヒーの有機栽培に辿り着くまでの歩みは、ひとまずここで終わる。そして、ジャカランダ農場で生産される有機コーヒーが、その名の通り、「有機無農薬ジャカランダコーヒー」として日本の食卓に上がるまでの物語が、ここから始まる。
この物語がなければ、「ジャカランダ農場のコーヒーは、他の農場のコーヒーと混ぜられ、ブラジルサントスの名でドイツかイタリアかスイスに輸出されていた」という従来通りの状態が続いていた。
もう一つ物語、それはジャカランダ農場のカルロスに、ある一人の男が辿り着くまでの軌跡である。
「ジャカランダコーヒー物語」
ブラジルにて「不可能」と言われていたコーヒーの有機栽培を丁寧な土作りと「いのちを大切にしたい」という想いから成し遂げたジャカランダ農場。農場主の故カルロス・フランコさんとジャカランダ農場の軌跡をお伝えします。
- 第1話.カルロスの祖先から
- 第2話.カルロス・フェルナンデス・フランコの誕生
- 第3話.幼年時代、豊かな自然のなかで
- 第4話.父イザウチーノのコーヒー栽培
- 第5話.カルロスの原風景
- 第6話.初恋
- 第7話.青年時代、ブラジルの大河に橋をかける
- 第8話.ジャカランダ農場主として
- 第9話.農薬の到来
- 第10話.次女テルマからのレポート
- 第11話.カルロスと農場スタッフ
- 第12話.福祉活動との関わり
- 第13話.コーヒーの有機栽培へ
- 第14話.リスクを背負って
- 第15話.ジャカランダ農場が受けた被害
- 第16話.本当の豊かさを求めて
- 第17話.「幸運」な出来事
- 第18話.水俣病との出会い
- 第19話.無農薬野菜の産直運動
- 第20話.チェルノブイリ原発事故
- 第21話.病に倒れて
- 第22話.ブラジル、遠く広く
- 第23話.想いを全て伝えて
- 第24話.有機栽培の意味を実感するとき
- 第25話.苦境を越えて
- 第26話.視線は地平線の遥か遠くまで伸び
- 第27話.コーヒー樹に囲まれた生活空間
- 第28話.コーヒー樹を見守り続けて 〜現場監督 ニーノの仕事〜
- 第29話.労働のなかの静かな祈り
- 第30話.コーヒー園に響く幼子の声と歌
- 第31話.ジャカランダコーヒーの生豆、60キロの重さ
- 第32話.老いてもなお
- 第33話.夏の草刈り
- 第34話.日が暮れて
- 第35話.ある雨の日の事故
- 第36話.土曜の夜、協会で
- 第37話.ジャカランダ農場、故郷として
- 第38話.写真でたどるジャカランダコーヒーの旅路 -土から生まれて食卓に届くまで-