地球上で最も遠い距離を埋めるために、中村は、ブラジル、サンパウロに有機コーヒー社の南米事務所を設立する。現地スタッフは毎月ジャカランダ農場を訪問し、農作業、コーヒー樹の様子を写真やビデオに収録。さらにカルロスや農場のスタッフと話したことをまとめて日本に報告した。
このブラジルと日本をつなぐ掛け橋の役割を果たしているのが、日系二世のクラウジオ・ウシワタである。ポルトガル語と日本語を使いこなすクラウジオは、この産直活動において必要不可欠な存在になる。彼が毎月ブラジルから送ってくるジャカランダ農場の写真やレポートにより作成されたパンフレットやビデオは、消費者に届けられた。
そして、消費者からはこんなメッセージがジャカランダ農場に届いた。
「いつも美味しく飲ませて頂いているコーヒーが、どんな方の手で、どのように作られているかがよく分かりました。農場で働くスタッフの皆さんの生き生きと楽しそうな表情が印象的でした。カルロスさんの人間性がこのおいしいコーヒーに生かされているようで、とても感動しました」
「堆肥作りからとても根気のいる仕事をされて、若い人から年配の人までとても楽しく農場の仕事をされていることが分かりました。ジャカランダコーヒーを飲むときには、皆様のお顔を思い出しながら飲ませて頂きます」
これらのメッセージをクラウジオが翻訳して伝えているとき、カルロスや農場のスタッフは、実に幸せそうな表情を浮かべる。それまで、ジャカランダ農場で栽培された無農薬コーヒーは、どこに輸出され、誰に飲まれているかも分からなかった。だから、「自分たちの仕事が喜ばれている」ことを実感する機会もなかった。それだけにスタッフは「最高だ。本当に嬉しい」と答えるのである。
日本とブラジルという地球上で最も長い距離を隔てた北と南の産直活動はこうして実現した。
「ジャカランダコーヒー物語」
ブラジルにて「不可能」と言われていたコーヒーの有機栽培を丁寧な土作りと「いのちを大切にしたい」という想いから成し遂げたジャカランダ農場。農場主の故カルロス・フランコさんとジャカランダ農場の軌跡をお伝えします。
- 第1話.カルロスの祖先から
- 第2話.カルロス・フェルナンデス・フランコの誕生
- 第3話.幼年時代、豊かな自然のなかで
- 第4話.父イザウチーノのコーヒー栽培
- 第5話.カルロスの原風景
- 第6話.初恋
- 第7話.青年時代、ブラジルの大河に橋をかける
- 第8話.ジャカランダ農場主として
- 第9話.農薬の到来
- 第10話.次女テルマからのレポート
- 第11話.カルロスと農場スタッフ
- 第12話.福祉活動との関わり
- 第13話.コーヒーの有機栽培へ
- 第14話.リスクを背負って
- 第15話.ジャカランダ農場が受けた被害
- 第16話.本当の豊かさを求めて
- 第17話.「幸運」な出来事
- 第18話.水俣病との出会い
- 第19話.無農薬野菜の産直運動
- 第20話.チェルノブイリ原発事故
- 第21話.病に倒れて
- 第22話.ブラジル、遠く広く
- 第23話.想いを全て伝えて
- 第24話.有機栽培の意味を実感するとき
- 第25話.苦境を越えて
- 第26話.視線は地平線の遥か遠くまで伸び
- 第27話.コーヒー樹に囲まれた生活空間
- 第28話.コーヒー樹を見守り続けて 〜現場監督 ニーノの仕事〜
- 第29話.労働のなかの静かな祈り
- 第30話.コーヒー園に響く幼子の声と歌
- 第31話.ジャカランダコーヒーの生豆、60キロの重さ
- 第32話.老いてもなお
- 第33話.夏の草刈り
- 第34話.日が暮れて
- 第35話.ある雨の日の事故
- 第36話.土曜の夜、協会で
- 第37話.ジャカランダ農場、故郷として
- 第38話.写真でたどるジャカランダコーヒーの旅路 -土から生まれて食卓に届くまで-