第26話.視線は地平線の遥か遠くまで伸び

その年の10月3日、1年10か月ぶりにブラジルを訪れた中村を、カルロスはジャカランダ農場で出迎えた。中村はカルロスの身体のことが一番気になっていたが、元気なカルロスの顔を見て安心した。

視線ははるか遠くへ
視線ははるか遠くへ

カルロスは農場を案内し、コーヒー樹を新植する地域を中村に見せた。そこで中村はカルロスや農場スタッフと一緒にコーヒーの種を蒔いた。

カルロスは中村にこれからの計画を語った。「コーヒー樹の寿命は15年から20年です。今後は、およそ6年の歳月をかけて、コーヒー樹を植え換えていかなくてはなりません。この新植計画を、中村さんと力を合わせて成功させたいと思っています」

ジャカランダ農場の今後の計画についての話が一段落すると、カルロスは、「チェルノブイリ支援活動の方はどうですか?」と中村に訊ねた。

1月と7月にチェルノブイリを訪れていた中村は、そのときのことを話した。「放射能による甲状腺疾患が年毎に増えています。特に、幼年期に被ばくした子どもたちの甲状腺ガンが目立ちます。しかし経済状況が悪化しているため、子どもたちは充分な検診や治療を受けられません。現地での早期診断と治療をするために、今年は3人の日本人医師が同行してくれました。これから最低でも5年は、この取り組みを続けたいと思っています。ジャカランダコーヒーの売上の一部もこのプロジェクトに使われています」

「次の世代に豊かな自然を残したい」という想いを共有する2人が出会ってから4年。夢はさらに広がる。

カルロスはコーヒーの有機栽培のパイオニアとして、いくつかの新聞に紹介され、農業学校で講師として話をするようになっていた。周辺にも有機栽培を志す生産者が増えてきており「できれば、地域全体を無農薬にしてエコロジーの里を作りたい」と語る。

また、中村は1997年の3月に「ウインドファーム」という新しい会社を設立。「有機農産物だけに限らず、環境保全に役立つ事業に幅広く取り組みたい」と抱負を語る。そのなかには、小型の水力発電や風力発電を広めるという夢も含まれている。

この話を聞いたカルロスは「将来、ジャカランダ農場にも水力発電を復活させ、風力発電も建てたい」と嬉しそうに語った。

71才のカルロス・フェルナンデス・フランコと41才の中村隆市。話は終わることなく、風吹く大地の広がりを前に、2人はその遥か遠くへと視線を伸ばしていた。

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「ジャカランダコーヒー物語」

ブラジルにて「不可能」と言われていたコーヒーの有機栽培を丁寧な土作りと「いのちを大切にしたい」という想いから成し遂げたジャカランダ農場。農場主の故カルロス・フランコさんとジャカランダ農場の軌跡をお伝えします。

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