朝7時、農場のスタッフは、天日乾燥場の脇にある事務所に集まる。そこで、その日に行う作業の内容や場所を指示するのは68歳の現場監督、ニーノだ。
ジャカランダ農場で生まれたニーノは、8歳のときに父を亡くした。コーヒー栽培の仕事を続ける母に育てられ、ニーノはカルロスの父イザウチーノが経営していたセーハ・ネグラ農場で、コーヒー栽培の仕事を始めた。カルロスは幼いころのニーノを覚えている。
近代農業へと移り変わる時代のなかで、農場主がイザウチーノからカルロスに変わった後も、ニーノはコーヒー樹を見守り続けている。86ヘクタールのコーヒー園を馬で歩きながら、土や葉、コーヒーの実の状態を観察し、カルロスに伝える。この報告を参考にしてカルロスが立てた計画をスタッフに伝えて実行するのが現場監督ニーノの仕事だ。
ニーノはコーヒーの有機栽培については、「とても難しいね。たくさん収穫できれば嬉しいし、少なければ落ち込むよ。化学肥料を使っていた頃はまだ簡単にできてたけど・・・。何より、草をしっかり刈り取ることが大事」と語る。
11人の子どもを授かったが、今は皆、巣立って行き、現在は妻アリッセ(63)との2人暮らし。30羽ほどの鶏、豚の親子、1頭の牛が家の回りを賑わしている。
目次
「ジャカランダコーヒー物語」
ブラジルにて「不可能」と言われていたコーヒーの有機栽培を丁寧な土作りと「いのちを大切にしたい」という想いから成し遂げたジャカランダ農場。農場主の故カルロス・フランコさんとジャカランダ農場の軌跡をお伝えします。
- 第1話.カルロスの祖先から
- 第2話.カルロス・フェルナンデス・フランコの誕生
- 第3話.幼年時代、豊かな自然のなかで
- 第4話.父イザウチーノのコーヒー栽培
- 第5話.カルロスの原風景
- 第6話.初恋
- 第7話.青年時代、ブラジルの大河に橋をかける
- 第8話.ジャカランダ農場主として
- 第9話.農薬の到来
- 第10話.次女テルマからのレポート
- 第11話.カルロスと農場スタッフ
- 第12話.福祉活動との関わり
- 第13話.コーヒーの有機栽培へ
- 第14話.リスクを背負って
- 第15話.ジャカランダ農場が受けた被害
- 第16話.本当の豊かさを求めて
- 第17話.「幸運」な出来事
- 第18話.水俣病との出会い
- 第19話.無農薬野菜の産直運動
- 第20話.チェルノブイリ原発事故
- 第21話.病に倒れて
- 第22話.ブラジル、遠く広く
- 第23話.想いを全て伝えて
- 第24話.有機栽培の意味を実感するとき
- 第25話.苦境を越えて
- 第26話.視線は地平線の遥か遠くまで伸び
- 第27話.コーヒー樹に囲まれた生活空間
- 第28話.コーヒー樹を見守り続けて 〜現場監督 ニーノの仕事〜
- 第29話.労働のなかの静かな祈り
- 第30話.コーヒー園に響く幼子の声と歌
- 第31話.ジャカランダコーヒーの生豆、60キロの重さ
- 第32話.老いてもなお
- 第33話.夏の草刈り
- 第34話.日が暮れて
- 第35話.ある雨の日の事故
- 第36話.土曜の夜、協会で
- 第37話.ジャカランダ農場、故郷として
- 第38話.写真でたどるジャカランダコーヒーの旅路 -土から生まれて食卓に届くまで-