ニーノの指示に従い、スタッフたちはそれぞれの作業所に散っていく。
収穫も終わりに近づく8月の下旬には、収穫作業の際に地面に落ちたコーヒーの実を採取する作業が行われる。地表を覆う落ち葉をかき集め、コーヒーの実と石と枝葉を振り分ける。
一緒に作業をするホベルト(23)とニューバ(20)は、結婚して今年で3年になる。ホベルトが掻き集めた落ち葉を、ニューバが直径1メートルほどのザルに乗せる。コーヒーの実が混在した枝葉を放り上げると、まず実と小石がザルに落ちてくる。同時にザルを手前に引くと、落下速度の遅い枯葉はそのまま地面へと舞いながら落ちる。こうして赤、黄色、黒の実と、赤茶色の小石が残っていく。
この作業を午前11時まで続けると、コーヒー樹の木陰で弁当を食べる。豆を煮たフェジョンとご飯、豚肉とサラダが入ったアルミの容器を膝の上に乗せると、ニューバは両手の指を組み、目を閉じた。神と仕事と食事への感謝の祈り。ホベルトとニューバは起床、食事、就寝の前にこの祈りを行う。仕事が終わると、毎日午後7時から9時までは農場内の教会で過ごす。こうした時間を、2人は結婚してから持つようになったという。
6年前からジャカランダ農場で働いているホベルトは「この農場では、農薬を使ってないから、安心して働けます」と語る。以前、働いていた農場では、農場主の命令にはどうしても逆らえないため、危険だと分かっていても、農薬を使わなければならなかった。
目次
「ジャカランダコーヒー物語」
ブラジルにて「不可能」と言われていたコーヒーの有機栽培を丁寧な土作りと「いのちを大切にしたい」という想いから成し遂げたジャカランダ農場。農場主の故カルロス・フランコさんとジャカランダ農場の軌跡をお伝えします。
- 第1話.カルロスの祖先から
- 第2話.カルロス・フェルナンデス・フランコの誕生
- 第3話.幼年時代、豊かな自然のなかで
- 第4話.父イザウチーノのコーヒー栽培
- 第5話.カルロスの原風景
- 第6話.初恋
- 第7話.青年時代、ブラジルの大河に橋をかける
- 第8話.ジャカランダ農場主として
- 第9話.農薬の到来
- 第10話.次女テルマからのレポート
- 第11話.カルロスと農場スタッフ
- 第12話.福祉活動との関わり
- 第13話.コーヒーの有機栽培へ
- 第14話.リスクを背負って
- 第15話.ジャカランダ農場が受けた被害
- 第16話.本当の豊かさを求めて
- 第17話.「幸運」な出来事
- 第18話.水俣病との出会い
- 第19話.無農薬野菜の産直運動
- 第20話.チェルノブイリ原発事故
- 第21話.病に倒れて
- 第22話.ブラジル、遠く広く
- 第23話.想いを全て伝えて
- 第24話.有機栽培の意味を実感するとき
- 第25話.苦境を越えて
- 第26話.視線は地平線の遥か遠くまで伸び
- 第27話.コーヒー樹に囲まれた生活空間
- 第28話.コーヒー樹を見守り続けて 〜現場監督 ニーノの仕事〜
- 第29話.労働のなかの静かな祈り
- 第30話.コーヒー園に響く幼子の声と歌
- 第31話.ジャカランダコーヒーの生豆、60キロの重さ
- 第32話.老いてもなお
- 第33話.夏の草刈り
- 第34話.日が暮れて
- 第35話.ある雨の日の事故
- 第36話.土曜の夜、協会で
- 第37話.ジャカランダ農場、故郷として
- 第38話.写真でたどるジャカランダコーヒーの旅路 -土から生まれて食卓に届くまで-