第32話.老いてもなお

シルビオの父ジェラルドは7才のときにジャカランダ農場に移り住んだ。まだ、トラックでコーヒー豆を運べなかった時代、ジェラルドは牛車で運搬した。 76歳になった現在も「仕事は好きだから辞めたくない」と言い、他のスタッフと同様、午前7時から午後4時まで働く。現在は1人暮らしだが、食事は息子の家で孫たちと一緒に食べる。

休日には孫たちと一緒に過ごすジェラルド・パイバ75歳
休日には孫たちと一緒に過ごすジェラルド・パイバ75歳

2人1組で行うはずの収穫作業を、1人でしているのは、マリア・アパレシーダだ。彼女は今年で50歳になる。その日、本来ならペアを組むはずの夫アイルトン・ガルシアはマッシャードの街に出かけていなかった。

3メートルから4メートルのコーヒー樹が林立するなか、コーヒーの実を求めて進みゆくと、ときとして傾斜30度位の斜面で立ち往生してしまうことがある。収穫の時期が終わりに近づく頃には、このような場所にコーヒーの実は残っている。

マリア・アパレシーダは、その急斜面で悪戦苦闘していた。両手を地につけなければバランスがとれず、ずるずると身体が下がっていく。

この急斜面での作業を終えると、彼女は実を掻き集める熊手のような道具と、枝葉の振り分けに使うザルを両脇に抱え、文字どおり地を這いながら前進を始めた。爪先を土に埋め込み、踏ん張り、登る。細く締まったふくらはぎは、とても50才のそれとは見えなかった。

坂を抜けたところの木陰で、ネルソン親子が休憩していた。彼女は水を分けてもらい「ふう」と息を付き、しばらく風に包まれていた。

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「ジャカランダコーヒー物語」

ブラジルにて「不可能」と言われていたコーヒーの有機栽培を丁寧な土作りと「いのちを大切にしたい」という想いから成し遂げたジャカランダ農場。農場主の故カルロス・フランコさんとジャカランダ農場の軌跡をお伝えします。

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