シルビオの父ジェラルドは7才のときにジャカランダ農場に移り住んだ。まだ、トラックでコーヒー豆を運べなかった時代、ジェラルドは牛車で運搬した。 76歳になった現在も「仕事は好きだから辞めたくない」と言い、他のスタッフと同様、午前7時から午後4時まで働く。現在は1人暮らしだが、食事は息子の家で孫たちと一緒に食べる。
2人1組で行うはずの収穫作業を、1人でしているのは、マリア・アパレシーダだ。彼女は今年で50歳になる。その日、本来ならペアを組むはずの夫アイルトン・ガルシアはマッシャードの街に出かけていなかった。
3メートルから4メートルのコーヒー樹が林立するなか、コーヒーの実を求めて進みゆくと、ときとして傾斜30度位の斜面で立ち往生してしまうことがある。収穫の時期が終わりに近づく頃には、このような場所にコーヒーの実は残っている。
マリア・アパレシーダは、その急斜面で悪戦苦闘していた。両手を地につけなければバランスがとれず、ずるずると身体が下がっていく。
この急斜面での作業を終えると、彼女は実を掻き集める熊手のような道具と、枝葉の振り分けに使うザルを両脇に抱え、文字どおり地を這いながら前進を始めた。爪先を土に埋め込み、踏ん張り、登る。細く締まったふくらはぎは、とても50才のそれとは見えなかった。
坂を抜けたところの木陰で、ネルソン親子が休憩していた。彼女は水を分けてもらい「ふう」と息を付き、しばらく風に包まれていた。
目次
「ジャカランダコーヒー物語」
ブラジルにて「不可能」と言われていたコーヒーの有機栽培を丁寧な土作りと「いのちを大切にしたい」という想いから成し遂げたジャカランダ農場。農場主の故カルロス・フランコさんとジャカランダ農場の軌跡をお伝えします。
- 第1話.カルロスの祖先から
- 第2話.カルロス・フェルナンデス・フランコの誕生
- 第3話.幼年時代、豊かな自然のなかで
- 第4話.父イザウチーノのコーヒー栽培
- 第5話.カルロスの原風景
- 第6話.初恋
- 第7話.青年時代、ブラジルの大河に橋をかける
- 第8話.ジャカランダ農場主として
- 第9話.農薬の到来
- 第10話.次女テルマからのレポート
- 第11話.カルロスと農場スタッフ
- 第12話.福祉活動との関わり
- 第13話.コーヒーの有機栽培へ
- 第14話.リスクを背負って
- 第15話.ジャカランダ農場が受けた被害
- 第16話.本当の豊かさを求めて
- 第17話.「幸運」な出来事
- 第18話.水俣病との出会い
- 第19話.無農薬野菜の産直運動
- 第20話.チェルノブイリ原発事故
- 第21話.病に倒れて
- 第22話.ブラジル、遠く広く
- 第23話.想いを全て伝えて
- 第24話.有機栽培の意味を実感するとき
- 第25話.苦境を越えて
- 第26話.視線は地平線の遥か遠くまで伸び
- 第27話.コーヒー樹に囲まれた生活空間
- 第28話.コーヒー樹を見守り続けて 〜現場監督 ニーノの仕事〜
- 第29話.労働のなかの静かな祈り
- 第30話.コーヒー園に響く幼子の声と歌
- 第31話.ジャカランダコーヒーの生豆、60キロの重さ
- 第32話.老いてもなお
- 第33話.夏の草刈り
- 第34話.日が暮れて
- 第35話.ある雨の日の事故
- 第36話.土曜の夜、協会で
- 第37話.ジャカランダ農場、故郷として
- 第38話.写真でたどるジャカランダコーヒーの旅路 -土から生まれて食卓に届くまで-