南半球に位置するブラジルの8月は、日本の夏ほどに暑くはならない。だから肉体労働をしても、滴るほどの汗はでない。
一方、12月から2月にかけてブラジルは1年のうちで最も暑い季節となる。気温が40度まで上がり、草が急速に伸びるこの時季、草刈りに追われるスタッフは、バケツの水を頭からかぶったように汗で衣服を濡らす。
急斜面が多いコーヒー園で草刈り機の使用は危険極まりない。身の丈ほどの柄のついた鎌で作業を行う。
鎌を手前に引っ張ると、草が裂かれる音とともに、バッタなどの昆虫が跳ねる。辺りをトンボが飛び交い、小鳥がコーヒー樹のすぐ上を駆け抜ける。気を付けないと、顔を蜘蛛の巣で覆われる。「ファーン」という蜂の羽音が、激しい草刈りの作業の間に響いてくる。
マリア・アパレシーダの息子ジョゼ・アイルトン(20)は、「草刈り作業は豪快で好きだ。それより農薬の方がもっと恐い」と語る。堆肥作りなど農場主カルロスの助手として働いていた彼は、3年前より月曜日から金曜日まではマッシャード市の農業学校で学び、週末ジャカランダ農場に帰ってくる。ジャカランダ農場での有機栽培に携わり、農業学校で農薬や化学肥料の使用を前提とする授業を受ける彼は、他の学生とは違った視点を持つようになり、現在、大学への進学を希望している。
目次
「ジャカランダコーヒー物語」
ブラジルにて「不可能」と言われていたコーヒーの有機栽培を丁寧な土作りと「いのちを大切にしたい」という想いから成し遂げたジャカランダ農場。農場主の故カルロス・フランコさんとジャカランダ農場の軌跡をお伝えします。
- 第1話.カルロスの祖先から
- 第2話.カルロス・フェルナンデス・フランコの誕生
- 第3話.幼年時代、豊かな自然のなかで
- 第4話.父イザウチーノのコーヒー栽培
- 第5話.カルロスの原風景
- 第6話.初恋
- 第7話.青年時代、ブラジルの大河に橋をかける
- 第8話.ジャカランダ農場主として
- 第9話.農薬の到来
- 第10話.次女テルマからのレポート
- 第11話.カルロスと農場スタッフ
- 第12話.福祉活動との関わり
- 第13話.コーヒーの有機栽培へ
- 第14話.リスクを背負って
- 第15話.ジャカランダ農場が受けた被害
- 第16話.本当の豊かさを求めて
- 第17話.「幸運」な出来事
- 第18話.水俣病との出会い
- 第19話.無農薬野菜の産直運動
- 第20話.チェルノブイリ原発事故
- 第21話.病に倒れて
- 第22話.ブラジル、遠く広く
- 第23話.想いを全て伝えて
- 第24話.有機栽培の意味を実感するとき
- 第25話.苦境を越えて
- 第26話.視線は地平線の遥か遠くまで伸び
- 第27話.コーヒー樹に囲まれた生活空間
- 第28話.コーヒー樹を見守り続けて 〜現場監督 ニーノの仕事〜
- 第29話.労働のなかの静かな祈り
- 第30話.コーヒー園に響く幼子の声と歌
- 第31話.ジャカランダコーヒーの生豆、60キロの重さ
- 第32話.老いてもなお
- 第33話.夏の草刈り
- 第34話.日が暮れて
- 第35話.ある雨の日の事故
- 第36話.土曜の夜、協会で
- 第37話.ジャカランダ農場、故郷として
- 第38話.写真でたどるジャカランダコーヒーの旅路 -土から生まれて食卓に届くまで-