農作業は、月曜日から土曜日の午前中まで行われる。1週間の労働を終えた土曜の夜には、農場内に建てられた教会に、近隣の農場からの信者も含めて30人ほどが集う。教会では、聖書が読まれ、ギターを伴奏に聖歌が歌われる。
アントニーノは、明日サッカーの試合があるため来ていないが、奥さんのエリゼッチはみんなの輪のなかで歌っている。奥さんと訪れた現場監督のニーノは、静かに目を閉じ、祈っているのか眠っているのか分からない。2人の子どもと一緒に来たシルビオもアクビを噛みしめては目を潤ませていた。1週間の労働の後だから疲れもたまっているようだ。
聖書の言葉に飽きた子どもたちは、表にでて戯れる。夕方から鳴きだした虫の音はやまず、丘陵の稜線に囲まれた天空には星が満たされる。8月の南半球の空には、ケンタウルス座と南十字星が陣取っている。
1月になると、星の他に、小さな光が宙を彷徨うようになる。ブラジルでは「バーガ・ルーメ」と呼ばれる蛍だ。星と蛍の瞬きが漂う夜の静寂に包まれて、ジャカランダ農場の1日は終わる。
目次
「ジャカランダコーヒー物語」
ブラジルにて「不可能」と言われていたコーヒーの有機栽培を丁寧な土作りと「いのちを大切にしたい」という想いから成し遂げたジャカランダ農場。農場主の故カルロス・フランコさんとジャカランダ農場の軌跡をお伝えします。
- 第1話.カルロスの祖先から
- 第2話.カルロス・フェルナンデス・フランコの誕生
- 第3話.幼年時代、豊かな自然のなかで
- 第4話.父イザウチーノのコーヒー栽培
- 第5話.カルロスの原風景
- 第6話.初恋
- 第7話.青年時代、ブラジルの大河に橋をかける
- 第8話.ジャカランダ農場主として
- 第9話.農薬の到来
- 第10話.次女テルマからのレポート
- 第11話.カルロスと農場スタッフ
- 第12話.福祉活動との関わり
- 第13話.コーヒーの有機栽培へ
- 第14話.リスクを背負って
- 第15話.ジャカランダ農場が受けた被害
- 第16話.本当の豊かさを求めて
- 第17話.「幸運」な出来事
- 第18話.水俣病との出会い
- 第19話.無農薬野菜の産直運動
- 第20話.チェルノブイリ原発事故
- 第21話.病に倒れて
- 第22話.ブラジル、遠く広く
- 第23話.想いを全て伝えて
- 第24話.有機栽培の意味を実感するとき
- 第25話.苦境を越えて
- 第26話.視線は地平線の遥か遠くまで伸び
- 第27話.コーヒー樹に囲まれた生活空間
- 第28話.コーヒー樹を見守り続けて 〜現場監督 ニーノの仕事〜
- 第29話.労働のなかの静かな祈り
- 第30話.コーヒー園に響く幼子の声と歌
- 第31話.ジャカランダコーヒーの生豆、60キロの重さ
- 第32話.老いてもなお
- 第33話.夏の草刈り
- 第34話.日が暮れて
- 第35話.ある雨の日の事故
- 第36話.土曜の夜、協会で
- 第37話.ジャカランダ農場、故郷として
- 第38話.写真でたどるジャカランダコーヒーの旅路 -土から生まれて食卓に届くまで-