インタグコーヒーが超えていくべき課題
インタグの森を守ろうとするコタカチ郡の試みや住民の意志、自治体の決定にも関わらず、鉱山開発の動きが終息することはなかった。
その背景の一つに、対外債務(国際的な借金)の問題がある。「途上国援助」という名の下に、援助する側の国の企業が、道路やダムや発電所などの建設を受注して潤うという構造がある。エクアドルに限らず世界の至るところで大きな弊害を生み出している。
援助を受ける側の民衆には恩恵が少ないだけでなく、「援助という名の借金」には利子が加算される。それを返済するために、民衆のための医療や福祉や教育予算が削られ、外貨を稼ぐための輸出中心の経済活動が重視されるようになる。
インタグの鉱山開発もこれに相当する。エクアドルの対外債務は莫大で、近年の債務返済額は、国家予算の50%を超える。ゆえに、自然を破壊し、鉱脈を掘り起こし、 目先の外貨を求める。
このような政府や外国企業が進める開発計画を跳ね返していくには、「森を守りながら、持続可能に発展できる」ことを具体的な形で示す必要があった。そう、インタグの森で、アグロフォレストリー(森林農法)による有機コーヒー栽培を実現することで・・・。
その実現に向けて、良質なコーヒーの生産、技術の向上、生活水準の向上など、AACRI(インタグコーヒー生産者協会)に課せられた使命は大きい。それまでのように生産されたコーヒー豆を、何の加工もしないで仲買人に販売している限りは、十分な収入は見込めない。が、収穫したコーヒーを生豆として販売できるよう加工を施し、さらに焙煎や袋詰めなどの作業を経て、コーヒーを完成した商品として協会が取り扱うようになれば、大幅な収入の増加が可能になる。
しかし、そのインタグコーヒーを国際市場で販売していくうえで、ある困難が立ちはだかる。流通システムの問題だ。
一般の国際市場においては、たとえそれが、伝統的な多品目栽培による森林農法から生まれた有機栽培コーヒーであっても、販売価格が高くなることはない。いわんや森を守ることの意味など、価格設定とは何の関係もなく、すべて国際相場価格で取り扱われてしまう。
国際相場価格に翻弄され、仲買人や商社には安く買いたたかれ、挙げ句の果てには他の地域で栽培されたコーヒーと混合されてしまえば、インタグの森を守るという想いをこめた「インタグコーヒー」として販売することは不可能になる。そんな流通のなかでは、コーヒー栽培による持続的な発展は考えられなかった。
求められるのは、適正な価格での「インタグコーヒー」の購入と、「森を守るコー ヒー」の販売を意義を伝えながら継続して取り組めるパートナーだった。
特にコーヒーのような輸出品の場合、海外との確かなつながりが必要になる。幸いにしてインタグ地方には、その自然の美しさに惹かれ、それを守りたいと願う人々が海外からも訪れ、アンニャ・ライトやカルロス・ソリージャのように定住する人も現れるようになっていた。
そうした人々の多くの働きかけは、インタグでの出来事を世界各地へ発信し、森を守る取り組みや鉱山開発の問題をインタグという1つの地域だけでなく、この地球の問題として共有していこうという潮流を生み出していく。そして、その流れのなかで、インタグコーヒーが必要とする人のつながりは、育まれていくことになる。
インタグコーヒー物語 目次
第1話:インタグコーヒーを育むその風土から・・・
第2話:森の人 カルロス・ソリージャとの出会い
第3話:迫り来る森の危機
第4話:インタグコーヒーの芽生え
第5話:アウキ知事の取り組み
第6話:終わらない鉱山開発
第7話:インタグコーヒーの作り手たち 〜その1 コルネリオさん
第8話:インタグコーヒーの作り手たち〜その2 オルヘル・ルアレスさん
第9話:インタグに移り住む人々 〜その1 アンニャ・ライトさん
第10話:インタグに移り住む人々 〜その2 メアリー=エレン・フューイガーさん
第11話:インタグコーヒーの作り手たち〜その3 ホセ・クエヴァさん
第12話:インタグコーヒーの作り手たち 〜その4 アルフレド・イダルゴさん
第13話:インタグコーヒーの作り手たち 〜その5 アンヘル・ゴメスさん