メキシコの首都メキシコシティから車で北東に6時間。ここに、雨が多く、豊かな緑が広がる小さな町プエブラ州・クエツァランがあります。この山岳地域の小さな町で、1977年に設立されたのがトセパン協同組合(以下、トセパン)です。
組合員の多くは、この地に古くから暮らす先住民の人々です。全体で3万5000世帯の組合員が、「アグロフォレストリー(森林農法)」による有機栽培コーヒーの生産を中心に、トセパン独自の金融機関やエコツーリズムなど様々な取り組みに参加しています。
皆でつながることがしあわせを生む。トセパンの皆が大切にし、原動力としてきた信念。それはどのようにして育まれてきたのでしょう。
トセパン組合の誕生
トセパンが設立される以前、この地域一体は政府の活動対象外でした。国からの予算は割り当てられない極貧地域の無法地帯で、地域の大土地所有者や仲買人は生産物を安く買いたたき利益を独占していました。
貧困に陥っていた地域住民は、状況を変えようと立ち上がります。その中心にいたドン・ルイスさんは、先住民とともにアグロフォレストリーを再生させ、地域に豊かな森を取り戻しました。また、適正価格で生産物を買い上げ、生活必需品を安価で販売することで、生産者の暮らしを極貧状態から脱却させていきました。
森を守る「アグロフォレストリー」と持続可能な地域づくりのモデル
こうしたトセパンの活動はメキシコ国内外で評価を受けました。そして2018年12月に発足したロペス・オブラドール大統領率いる新政権において、当時トセパンのスタッフであったマリア・ルイサさんが、ビエンエスタール省の大臣に指名されることになりました。
ビエンエスタール省は、地域開発、農業、雇用など多様な分野で様々な政策を行っています。その重要政策の1つが「センブランド・ヴィダ(いのちの種をまく)」というアグロフォレストリーを普及させる国家プロジェクトです。
これは、メキシコ国内100万ヘクタールの土地でアグロフォレストリーを実践し、農村地域に暮らす人たちの貧困を解決するという目的を持っています。そしてこの取り組みは、いまやメキシコ全土だけでなく、エルサルバドルやグアテマラ、ホンジュラスの中米諸国にも広がり始めているのです。
トセパン協同組合の紹介映像
トセパン協同組合の多様な活動がよくわかります。日本語字幕付きですので、どうぞご覧ください。
さらに詳しくは「トセパンコーヒー物語」もあわせてご覧ください。
トセパンコーヒー物語 目次
トセパンの概要
第1話「ケツァールの地〜トセパンが活動する地域」
第2話「メキシコとコーヒーの意外な(?)関係」
第3話「トセパン協同組合ってどんな組織?」
トセパンの歴史
第4話「抑圧されてきた先住民たち」
第5章「闘いは砂糖から始まった」
第6話「トセパンを支える作物・オールスパイス」
森林農法・アグロフォレストリ
第7話「森を守り、森を育てるコーヒー」
第8話「「おかげさま」を大切にするフェアトレードコーヒー 」
第9話「森林農法とは?」
第10話「森林農法がもたらす豊かさ〜生物多様性」
第11話「森林農法がもたらす豊かさ〜安心できる暮らし」
トセパンの活動と意義
第12話「トセパンがもたらす組合員の自立と誇り」
第13話「お金はみんなのもの〜トセパントミン」
第14話「より良く生きるため、女性達よ集まれ」
第15話「ホノトラの闘い」
第16話「学び、成長していくこと」
(注)これらの原稿は、トセパンが作成した「30周年組合史(2007)」、ウインドファームとも付き合いが長いメキシコの生態学者パトリシア・モゲル氏の各種論文、ウインドファームスタッフが現地を訪問した際に作成したレポートなどを編集して作成しています