森林農法がコーヒー以外に生み出すものに「人々の安心できる暮らしと文化」も挙げられます。
コーヒー以外の多種多様な作物
生物多様性の豊かな森林農法のコーヒー園を営むことは、農民にとって暮らしに安心感をもたらしてくれます。例えば、森の中に行けば、キノコ、バナナ、アボガド、オレンジ、豆、など多様な食料も手に入れることができます。これは、自給的な暮らしを営む上でとても大切な側面です。さらには、数々の薬草、立派な家の建材、煮炊きをする上での燃料、そして森で過ごすことの安らぎも得ることができるのです。
この土台があれば、コーヒーが不作であったとしても、他の作物が物理的に食べていくことを可能にしてくれます。また、他の作物を換金することもできるため、農民の暮らしに安心感が生まれるのです。もし、コーヒーだけに暮らしを依存していて、不作だったと考えると、常に不安と共に生きることになってしまうのです。
ハリナシミツバチの養蜂
トセパンの組合員たちの多くが、庭先で地蜂による養蜂にも取り組んでいます。森林農法を展開する上で、ミツバチの存在は欠かせません。地域の固有種である体長1cm程のミツバチには針が無く、刺されることはありません。子どもが手伝いとして、または女性が家事の合い間におこなうのが、この地域における養蜂なのです。木の巣箱は使わず、素焼きの壷がミツバチの巣になります。
ミツバチの巣として壷を使うことは、この地域に見られる面白い特徴です。かつては丸太をくり貫いて巣箱にしていたそうです。沢山の巣箱を作れば作るほど、森の木は消えていきました。森の木を切らずに養蜂を続けること。これも、自然の中で暮らす人々の知恵です。
ミツバチは森の中を飛び回り、たくさんの種類の花から蜜を集めます。独特の甘酸っぱい風味のハチミツは、一度食べたら病み付きになりそうです。ハチミツも採れますが、ミツバチは森林農法の森の中で、様々な樹々の受粉を促す役割も果たしています。また、コーヒーの収穫期とハチミツの収穫期にはズレがあるため、必要な現金収入の道が複数あることも大切なポイントなのです。ここでも、「すべての卵を1つのカゴに保管しない」という現地のことわざの真意が現れています。
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環境の保全
多様な樹木を抱える森林農法の森があることで、大雨やハリケーンの際にも土砂の流出などを防ぐことができると言われています。また、コーヒー農園は地域のため池などの水瓶よりも高い場所にあるため、低い土地への水の流れを緩和する役割も果たしています。これは、洪水の回避にもつながっているのです。森に多様な樹々があることが、天然のダム機能を果たしているのです。さらに大きな眼で見れば、森林農法は二酸化炭素を吸収し、自然界に酸素を供給しており、地球温暖化の防止にもつながっていると言えます。
コーヒーのみを栽培するプランテーション農園よりも、森林農法によるコーヒー園は、環境の保全の能力がとても高いと言えるでしょう。
トセパンコーヒー物語 目次
トセパンの概要
第1話「ケツァールの地〜トセパンが活動する地域」
第2話「メキシコとコーヒーの意外な(?)関係」
第3話「トセパン協同組合ってどんな組織?」
トセパンの歴史
第4話「抑圧されてきた先住民たち」
第5章「闘いは砂糖から始まった」
第6話「トセパンを支える作物・オールスパイス」
森林農法・アグロフォレストリ
第7話「森を守り、森を育てるコーヒー」
第8話「「おかげさま」を大切にするフェアトレードコーヒー 」
第9話「森林農法とは?」
第10話「森林農法がもたらす豊かさ〜生物多様性」
第11話「森林農法がもたらす豊かさ〜安心できる暮らし」
トセパンの活動と意義
第12話「トセパンがもたらす組合員の自立と誇り」
第13話「お金はみんなのもの〜トセパントミン」
第14話「より良く生きるため、女性達よ集まれ」
第15話「ホノトラの闘い」
第16話「学び、成長していくこと」
(注)これらの原稿は、トセパンが作成した「30周年組合史(2007)」、ウインドファームとも付き合いが長いメキシコの生態学者パトリシア・モゲル氏の各種論文、ウインドファームスタッフが現地を訪問した際に作成したレポートなどを編集して作成しています