コーヒーを育てる人々の暮らしに森林農法のコーヒーがどういった影響があるかをご紹介しましょう。
ここに興味深い調査レポートがあります。トセパン組合員と非組合員を対象とした意識・実態調査です。「農業生産者と人間開発機構」という公的機関とトセパンの共同調査が行われました。
調査項目としては、以下があります。
「収入」「住居の質」「栄養」「教育」「参加」「アイデンティティ」「将来への展望」「自尊心」
写真の、白線が、トセパン組合員のデータ
ピンク色の線が、非組合員のデータとなっています。
全ての調査項目において、トセパン組合員に高い数値が出ています。以下でその内容を一部解説していきましょう。
● アイデンティティおよび自尊心について
一般にメキシコ社会は、先住民であることで差別を受け、先住民の女性であることでさらに差別を受けると言われています。
先住民であることで、教育や就業の機会を奪われているのが現実なのです。
一方、トセパンは先住民が設立した組織です。女性の仕事も尊重されています。
自尊心の項目で自己評価が高いということは、組合に所属することで、先住民としての自覚や誇りを持つことができていると考えられます。
● 安心感
将来に不安を抱いているかどうかという項目です。
トセパンの組合員は非組合員と比較して、将来について前向きな姿勢を持てているようです。
組合があることで、子どもの教育、仕事、収入などの面において不安要素の少ない安定した生活を送ることが出来ていると言えます。
● 参加
トセパンの組合員は、組合活動だけでなく、村の活動などへの参加度も高いことが特徴として挙げられます。
トセパンの組合員であることで、地域や社会への関心が高まり、個々が主体的に社会参画をしていることを示しています。
● 収入
収入の数値は低く、非組合員と比較しても、さほど高くありません。
しかし、収入の内容が大きく異なります。
トセパンの組合員は、自ら生産した作物などの販売により収入を得ていることが特徴的です。つまり、自立収入型と言えるでしょう。
他方で、非組合員は、出稼ぎ家族からの仕送りや国からの補助金が主な収入源となっています。つまり、外部への依存的収入型と言えるでしょう。
トセパン組合員は自立型の収入を得ることで、自らの存在と暮らしの在り方に誇りを持っており、その他の調査項目でも高い数値に結びついていると考えられます。
数字で表される調査結果が全てではありませんが、トセパン協同組合があることで、組合員の暮らしは本当の意味で豊かになっていると言うことができるでしょう。
トセパンコーヒー物語 目次
トセパンの概要
第1話「ケツァールの地〜トセパンが活動する地域」
第2話「メキシコとコーヒーの意外な(?)関係」
第3話「トセパン協同組合ってどんな組織?」
トセパンの歴史
第4話「抑圧されてきた先住民たち」
第5章「闘いは砂糖から始まった」
第6話「トセパンを支える作物・オールスパイス」
森林農法・アグロフォレストリ
第7話「森を守り、森を育てるコーヒー」
第8話「「おかげさま」を大切にするフェアトレードコーヒー 」
第9話「森林農法とは?」
第10話「森林農法がもたらす豊かさ〜生物多様性」
第11話「森林農法がもたらす豊かさ〜安心できる暮らし」
トセパンの活動と意義
第12話「トセパンがもたらす組合員の自立と誇り」
第13話「お金はみんなのもの〜トセパントミン」
第14話「より良く生きるため、女性達よ集まれ」
第15話「ホノトラの闘い」
第16話「学び、成長していくこと」
(注)これらの原稿は、トセパンが作成した「30周年組合史(2007)」、ウインドファームとも付き合いが長いメキシコの生態学者パトリシア・モゲル氏の各種論文、ウインドファームスタッフが現地を訪問した際に作成したレポートなどを編集して作成しています