目次へ

エクアドル・インタグコーヒー物語 序章

―7世代先まで考えた永続可能な農業を目指して―

株式会社ウインドファーム代表取締役 中村隆市

 中南米を訪問するようになって、先住民の人たちとの付き合いが始まりました。彼らの文化のなかには、フェアトレードの考え方を生み出す母体となる哲学があるように思います。彼らは自然と人間を別物だとは考えません。いのちといのち、現在と未来とを切り離して考えません。「7代先まで考えて行動する」という自然との接し方に代表されるように「共生」や「永続性」ということをとても大切にしています。
 1998年に私たちは、日本で「国際有機コーヒーフォーラム」を開催しました。エクアドルで、先住民(ケチュア族)として初めて市長に選ばれたアウキ・チトゥアニャさんはフォーラムで、日本の国際協力事業団と日本企業が進める銅山開発のための試験採掘で、森林破壊と重金属汚染がおこり、地域住民の大半が銅山開発に反対していることを明らかにしました。そして、彼はコタカチ市長として、生態系保全都市宣言をし、鉱山開発のような環境破壊型の開発ではなく、美しい自然環境を守りながら、貧困からも抜け出すための方法として、有機農業を柱とした永続性のある開発計画を発表しました。
 また、アウキさんと共にフォーラムに参加したインタグ有機コーヒー生産者協会のエドガー・カバスカンゴ会長は、インタグ地方の小農民を代表して、次のように語りました。
 「生物多様性の豊かな土地において銅山開発は脅威であり、有機農業とは相容れません。コーヒー栽培を中心に有機法で、同時に果樹や野菜などの自給用作物を混植することで地域の生態系を崩すことなく農業を成り立たせることができます。日本の企業による銅山開発をやめさせるようご協力ください」

 それから3ヶ月後に、初めてエクアドルを訪問した私に、住民を代表する人々は「有機コーヒーのフェアトレードが成立すれば、鉱山開発は止められます」と力強く語りました。
 昨年、2度目の現地訪問を終えて、インタグの有機コーヒーをフェアトレードで購入したところ、協会の会員がたちまち100名を超え、120名に増えたと聞いていました。
 そして、今年の4月に3度目の訪問をしたところ、なんと、会員が250名に急増していました。インタグ地域の住民のフェアトレードに対する期待の大きさが分かります。
 インタグの伝統的な農業は、もともと自然農法や「森林農業」といわれるものに近く、自然の力を生かした農業です。そのために、土壌の状態は長く有機農業に取り組んでいるジャカランダ農場に劣りません。
 日本での試飲の結果、多くの方から好評を得ています。また、さまざまな焙煎度合いで試飲を繰り返した結果、インタグコーヒーはジャカランダコーヒーに比べて酸味が強いため、ジャカランダコーヒーに比べて、やや深煎りに焙煎して苦みとのバランスをとりました。香りもよく深い味わいとなっています。

*今年5月に行われた市長選挙で、アウキさんは住民の圧倒的な支持で再選されました。
私たちは、環境保護と有機農業の熱心な推進者であるアウキ市長が4年間で、市長を交代するまでに、南米各地の人々のモデルとなる「有機農業の里」をつくり上げたいと考えています。

←前の記事 目次へ戻る