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3つの国の、3人のカルロス

ブラジル・コロンビア・エクアドル
南米大陸、同じ夢を抱く人々との出逢い

 2000年4月の国際会議に3人のカルロスが集まる。1人は、もちろんブラジル・ジャカランダ農場のカルロス・フェルナンデス・フランコさん。有機コーヒー栽培の第1人者として、その貴重な経験を語ってくれると思う。
 2人目は、昨年6月にコロンビアの国際有機コーヒーセミナーで出会ったリサラルダ州知事のカルロス・ロペスさん。そして、3人目が今年の2月にエクアルで出会ったカルロス・ソリージャさんである。
 ブラジル、コロンビア、エクアドル。この3つの国の3人のカルロスさんに共通することは、環境保護と有機農業に熱心に取り組んでいるということと、個人的な利益に執着せず、多くの人に信頼されているということである。
 コロンビアのカルロス・ロペスさんは州知事になる前は、州の環境局長を務め、その前は生まれ故郷の市長として、環境保護活動に熱心で、20年以上も前から市民の環境保護意識を高めるため様々な取り組みをしている。
 彼の作った植物園には、豊かな自然があるだけでなく、子どもたちが楽しみながら環境保護の意識を高めるための工夫が随所に見られる。シーソーをして遊びながら植物に散水したり、太陽熱温水器や太陽光、風力、バイオガスなどの再生可能エネルギーシステムが展示してあったり、野鳥を保護する意識を育てるために、鳥を撃ち落とすためのゴム銃を子どもたちから買い集めてゴム銃展示館を作ったり、ゴミの分別意識を育てるため、植物園にたくさんの分別ゴミ箱を設置していた。私の聞き間違えでなければ「900万年前」の木の化石も展示してあり、触ってはいけないのだろうと思っていると「触ることが大事です」と言って子どもたちに自由に触らせていたのが印象的だった。
 また、彼は小農民や子どもたちに希望を与える政策を続けている。彼が作った「文化の家」という古い大きな建物を改造した施設は、千人以上の収容能力があるが、これは子どもが主人公の「家」で、音楽、絵画、ダンス、ゲーム、読書などを子どもたちが自由に楽しめるようになっている。
 「世界一危険な国」と言われている国に、このような子どもの笑顔があふれた「文化の家」があることに新鮮な驚きを感じた。
コロンビア・リサラルダ州でのゼロ・エミッション会議場にてグンターパウリさん、ラモン所長と
コロンビア・リサラルダ州でのゼロ・エミッション会議場にてグンターパウリさん、ラモン所長と
 今回のコロンビア訪問では、ロペス州知事の招待で、第5回ゼロエミッション国際会議に参加させていただいた。国際有機農業センターのラモン所長の友人でもあるグンター・パウリが中心となっているこの会議は廃棄物(ゴミ)をまったく出さない生産システムを世界規模で研究している。エクアドルのアウキ市長もそうだが、有機農業に熱心な首長はゴミ問題にも熱心である。  3人目のカルロス、エクアドルのカルロス・ソリージャさんは、本誌3号でも紹介しているが、森林破壊と重金属汚染を招く銅山開発を拒否し、有機コーヒー栽培での地域開発を選択したエクアドル・インタグ地区の農民だ。その代表として来年のブラジル会議に出席する。
 今回、彼の農場を訪ねたとき、いきなり「日本のトウカイムラで原子力の大事故が起こっているが、知っているか」と聞かれ、驚いた。  「原発は、事故を起こさなくても後世代に半永久的に放射性廃棄物という重荷を負わせ続ける。先進国の殆どがチェルノブイリ原発事故以後、原発から再生可能エネルギー(バイオマス、風力、太陽、小水力など)に方向転換しているのに、核の被害を受けた経験のある日本が、何故、世界の10%以上の原発を保有し、未だに原発を増設し続けているのか、理解できない。」という言葉に、私は黙って頷くしかなかった。  後日、ソリージャさんが副会長を務めるDECOINという環境保護団体の仲間がリサイクルの部品で作っている小さな水力発電機や一般のコンロ(かまど)より、半分の薪で調理ができる省エネコンロを近隣の農家に見学に行った。このような身近な自然を生かした発電方式や薪を取るための森林伐採を減らすための省エネコンロに取り組む彼らには、限度を知らない日本人のエネルギー消費(浪費)の増大が理解しがたいに違いない。
エクアドル・インタグ地区の小規模水力発電機
エクアドル・インタグ地区の小規模水力発電機
 2日間彼の農場に泊まり、彼がこれまで歩いてきた人生をじっくり聞かせて貰った。キューバに生まれ、若い頃から世界を歩いて、そして、20年前、最後にたどり着いたのがエクアドルのインタグであったという。その自然の美しさに魅せられて以後、彼はインタグを離れようとしない。なぜ彼が、度重なる脅迫を受けても銅山開発に反対し、環境保護運動を止めないのか、その理由が分かった気がした。その後、エクアドルに滞在中、全行程を案内してくれたプロのミュージシャンであるアンニャ・ライトと彼が、交互にギターを弾きながら歌ってくれた自作の歌は最高だった。アンニャは「私たちの共通の夢を希望で膨らませるために」と最後にジョン・レノンのイマジンを歌った。
 旅の最後に、いつものようにジャカランダ農場を訪問する。いつもと変わらぬカルロスさんの笑顔の出迎えが、旅の疲れを癒してくれる。カルロスさんは今年72歳になった。体力的には、徐々に低下しているのだろうが、精神面でのはつらつさが、それを感じさせない。今も、新しいプロジェクトを考えている。「エコロジーの里プロジェクト」と呼ばれる、農村開発プロジェクトである。このプロジェクトを元に、将来、本の出版も考えている。
 プロジェクトは4つの柱で構成され、その中に17の小さなプロジェクトが含まれている。4つの柱は「教育と健康」「有機農業」「土地と住居」「農産加工と自然エネルギー」で、小さなプロジェクトは「小、中、高校、大学への道と奨学金」「持続可能なエコロジカル家族農業」「ゴミのリサイクル」「農民に対する家庭用の土地分布」「風力とソーラーエネルギー」などで、いずれも興味深い内容である。
ジャカランダ農場スタッフの住居
ジャカランダ農場スタッフの住居
 これまで、カルロスさんが「中村さん、私は今こんなことを考えています。こんな希望をもっています」と言って、さりげなく語ってきたことのほとんどは、数年後には実現されてきた。今回のプロジェクトは、今まで以上に規模が大きく、内容も多岐にわたっている。しかし、カルロスさんのことだ、時間はかかっても必ず実現することだろう。(いや、こんな他人事のような言い方をしてはいけない、一緒に協力して実現させたいと思う。)
ジャカランダ農場のカルロスさん。 息子、孫とともに
ジャカランダ農場のカルロスさん。 息子、孫とともに
 カルロスさんという人は、ものごとを長い目で見る。そして、いつも全体を考えている。なるべく全体を見ながら、個別のことを進めていく。現代社会が、全体を見ずに一部のこと、限られた部分だけを見て対応し、全体を狂わせているのと対照的である。農薬や遺伝子組み換え作物などは、その象徴だろう。賢いはずの人類が環境を破壊し汚染して、地球全体の生命を危機に陥らせている。環境問題はなぜ起こるのか、それををどう解決していけばいいのか。それは、21世紀を迎える私たち皆の最大の課題である。 *2000年4月のブラジル会議は「有機コーヒー、フェアトレード」というテーマを掲げていますが、参加者の大半は、環境問題全般にも関心を持っておりさまざまな取り組みをしています。3人のカルロスさんをはじめ、個性あふれる中南米の人々に、あなたも直接会ってみませんか。
(中村隆市)

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