有機マンゴー生産者グループは、カルロスさんが持参したインタグコーヒーの種を屋久島で栽培してみることを決定しました。このコーヒーがうまく育ったら、エクアドルのインタグコーヒーとブレンドして、エコヴィレッジ・ブレンドコーヒーとして屋久島特産として売り出すことになっています。
九州で水俣病の実態と屋久島の森林(世界遺産)の素晴らしさの両面を見て、彼らは、自分たちが取り組んでいることに間違いはないという思いを深めたといいます。彼らが望んでいる「発展」とは、モノやカネを最優先する経済偏重ではなく、人間の生活の質や人間性を高める、心の豊かさを高めることだといいます。子どもたちや未来世代にとっての生存基盤である環境を破壊したり、汚染することは、持続可能ではないので、決して発展ではないと言い切っています。
こうした考え方は、もともと先住民文化のなかにあったのですが、コタカチ郡全体で、この考え方が共有されるようになったのは、ルースマリーナさんの夫であるアウキ・ティテュアニャさんが知事になってからです。アウキさんは、この地域で初めて先住民出身の知事となって以来、誰もが参加できる政治を目指してきました。そして、皆に呼びかけました。「民衆議会に来てください。直接、話をしましょう。どんな開発、発展、町づくり、郡づくりを望んでいるのですか。皆の意見でそれを作っていきましょう」と。
四年に一回、選挙で選ばれる議員の議会とは別に、一年に一回、誰もが自由に参加できる民衆議会を呼びかけました。これまでは、知事のまわりに議員がいて、その議員たちがすべてを考えて決定し、民衆はそれに受動的についていくという感じだったのが、アウキさんは「決めるのはあなたたちだ。自分たち(知事、議員)は、市民が手に入れにくい専門的な情報を提供する責任を負う。しかし最終的に決定するのは、あなたたちだ。」と明言しました。
もう一つ、この民衆議会の素晴らしいところは、年令に制限がなく若者や子どもたちも参加できることです。「子どもであっても、考えは持っている。どんな未来に暮らしたいのかというビジョンを持っている。しかし、ただ要求するだけでなく、青年、子どもたち自身がそれに向けて実際に活動するということが大事だ。民衆議会というのは、ただ要求するだけではなく、一年間に自分たちが何を行ってきたのか、その活動を自分たちで評価し、これから何をしていくのかということを考える場である。今までは、議員らに全てを任せてきたが、これからはそうではない。民衆が主人公で、自分たちが決めたら、それを自分たちで実行していかなければならない。」というアウキさんの考え方に賛同する人は年毎に増え、二期目の知事選挙では、得票率80%に至っています。
コタカチ郡はその後、カルロスさんが会長を務める環境保護団体DECOINの提案により、法的に条例もつくって、南米で初めての「生態系保全自治体」を宣言します。
しかし、こうした住民の意志、自治体の決定にも関わらず、鉱山開発の動きは、いっこうに収まりません。その背景に、対外債務(外国からの借金)の問題があるからです。エクアドルでは、通貨のドル化により貧困が加速する中で、民衆の間に助け合いと分かち合いの精神に基づいた地域通貨の取り組みが広がっています。この地域通貨によって、お金のない人も、自分ができることをすることで、食べていけるようになってきています。
「地域通貨」や「フェアトレード」は、貧富の差を小さくしていきます。一方、利子の付く「援助」や「自由貿易」は貧富の差を拡大しています。
報告の最後にアルカマリ(ルースマリーナのキチュア名=天と地を結ぶメッセンジャーという意味)が教えてくれたキチュア族の伝説をお伝えします。
「アマゾンの森が燃えていた。すべての動物たちは、大急ぎで逃げていった。特に大きな強い動物たちは、真っ先に逃げていった。私たちにとって重要な鳥であるクリキンディ(金の鳥)というハチドリの一種は、くちばしに水滴を一滴とって燃えている森に行き、その森に水滴を落とす。そして、また戻ってきては、水滴を持っていく。それを見て、大きな動物たちは、『そんなことをして、火を消すことができるものか』とクリキンディを馬鹿にした。それに対してクリキンディは、『私は、私にできることをしているの』と答えた。」
この話は、辻信一さんも前号で紹介していますが、私が感銘を受けたのは、このような伝説を生み出し、そして、今も大切に言い伝えている人びとの存在です。こうした伝説を大事にしているエクアドルの仲間たちと日本各地を旅しながら、私は彼らから大きな希望をもらいました。アメリカや日本を筆頭とする「子どもたちや未来世代のいのちよりも、金儲けを優先する現代社会」を変えていくことは、とても困難だが不可能ではない。「この社会を作り出したのも人間なのだから、私たちにこの社会を変えていけないはずはない」と彼らは言っています。
今年の9月上旬から中旬にかけて、彼らとともにエクアドルのコタカチ郡で、第3回目の「有機コーヒー・フェアトレード国際会議」(1998年日本、2000年ブラジルで開催)を開催します。今回は「持続可能な社会」をテーマに掲げて、コタカチ郡で取り組まれている草の根民主主義や地域通貨の取り組みにもスポットをあてます。また、この会議にも参加するエコツアーが予定されています。