カルロス・ソリージャ
カルロス・ソリージャ
1951年キューバに生まれる。
1962年、アメリカに移住し、カリフォルニア州オレンジ・コースト大学で写真と哲学を学ぶが中退。その後、「真の教育]を目指し、北米、南米、ヨーロッパなどを旅する。1979年には、自らの生涯の家を持つためエクアドルのインタグ地区に家族とともに移住。現在は、コーヒーを生産するのみならず、環境保護団体デコインの会長として銅山開発を阻止するなど、美しい自然と地域の人々のために積極的な活動を行っている。
豊かな自然を育むインタグからのメッセージ
私たちは、インタグという非常に美しい場所に暮らしています。このインタグ地区は、西エクアドルのインバブラ州にあります。この地区は、美しい雲霧林が広がり、雲、霧がもたらす湿度が高いので、生物多様性が非常に豊かなところです。また、高度が300メートルの地域から5,000メートル級の山がそびえる山岳地帯まで非常にバラエティに富んでいます。そして、高度が変わるそれぞれの地域ごとでも多様性が豊かなので、全体としての生物多様性も非常に豊かなのです。
このコタカチ郡のインタグ地区は、世界でも有数の2つの生物地域が存在しています。一つは、「チョコ・ダリアン西エクアドルホットスポット」(この場合のホットスポットは、生物多様性が非常に豊かで集中しているところ、を意味する)と呼ばれるところで、もう一つは、「熱帯アンデス生態系ホットスポット」と呼ばれるところです。たいへん豊かな生物多様性を誇りながら、その生態系が危機に陥っているホットスポットと呼ばれる地域は、世界中で25ほど確認されています。
私の家から眺めることのできる500ヘクタールの森には、アメリカとカナダを合わせたよりも多くの種類のランとハチドリが生息しています。また、インタグ地区には、絶滅の危機に瀕している何十種類もの動物(例えば、熊)が住んでいます。
そして、エクアドルの中でも、西エクアドルの森は、最も破壊の危機にある森林です。私は、日本にどれほどの種類のランが生育しているのか確定しようとしましたが、私の推測では、この500ヘクタールの森の中に、日本全体で見られるよりも多種のランが生育していると思っています。
インタグの渓谷
破壊の危機にさらされるたくさんの森の命
しかし、こうした植物の多くが絶滅の危機に瀕しています。そして、それは、農業から引き起こされている破壊ではなく、多国籍企業によるものです。「発展とは何か」また「良い暮らしとはどういうものか」ということに関する一般的な考え方によって破壊が進められているのです。
1990年代、三菱が、この地区に多量の銅を発見しました。そして、この三菱による開発計画は、日本の納税者からの税金が資金源となっており、エクアドル政府も、この計画を支援していました。この開発の脅威に直面したことで、私が現在、代表を務めているデコインという草の根の組織(環境保護団体)が出来上がったのです。
私たちは、三菱が、このインタグ地区の鉱山を採掘しようと計画しているのを知って、その情報をコミュニティに流しました。鉱山開発を行う前には、環境影響調査を行わなければならないのですが、今回の計画に対しては三菱がこれを行いました。報告されたこの調査の内容は、「インタグ地区の四つのコミュニティが移住しなければならず、川も重金属(鉛、ヒ素、クロムなど)によって強い汚染を受けることになる」というものでした。また、この調査報告書には、4,000ヘクタールもの森林の伐採についても書かれていました。そしてそれから2年半の間は、困難を極めた活動(活動する者の何人かには、危険が迫るような活動)の後、コミュニティの人たちは、こうした開発計画を永久に受け入れない、認めない、という決定を下したのです。私たちは、この銅山開発を1997年に止めることができました。
持続可能な発展を目指して
三菱の開発計画の結果、私たちはオルタナティブな道を探さなければならなくなりました。その道の一つといえるプロジェクトが、日陰樹を利用したコーヒーの有機栽培で、“アグロフォレストリ”と呼ばれているものだったのです。このプロジェクトの基本にあるのは、開発や破壊を止めながらも、人々が、きちんとしたまともな生活を送ることができるということです。そして、私たちが幸運だったのは、このプロジェクトの早い時期に、ウインドファーム社の中村さんと出会い、正当な価格で私たちのコーヒーを日本で販売するという関係が築けたということでした。また、コーヒーの有機栽培プロジェクトは、現在、新たに生じている金山開発と闘う上で、非常に有効な手段になると思っています。何が起こるかわかりませんが、私たちは、金山開発と闘うためのオルタナティブな手段を持ち合わせているのです。また、その他にも、新たにチリの鉱山開発会社が入ってきたのですが、それと闘う上でも、このコーヒーの有機栽培プロジェクトは非常に有効な手段となりました。
エコツーリズムで深まる文化の理解
また、このプロジェクトと並ぶもう一つの持続可能なプロジェクトが、三菱の銅山開発で最も影響を受けた村で行われているエコツーリズム(観光する側が、その土地の人々の環境や文化を破壊しない、あるいはそれに対して影響を与えないようなかたちで行われるツーリズム)です。
この村では、自分たちの森林を、自らコミュニティ生態系保護区に指定しました。日本と異なり、エクアドルでは、国有林は国策によって容易に伐採されてしまう可能性が高いのです。本気で森林を守りたければ、私有林や共有(コミュニティ)林を、保護区とした方が安全と言えるのです。
デコインのメンバーたち
草の根運動が持つ可能性
デコインは、非常に小さな草の根の団体であるため、今まで述べてきた活動の規模はとても小さいものです。皆さんの中で、“草の根”という言葉がどう捉えられているのかわかりませんが、私たちは、「組織が存在するその地域の住民が参加する」のが“草の根”だと考えています。そして私は、この“草の根”こそが、成功の鍵だと思っています。というのも、この活動が、問題が生じている地域(私たちが生活している地域)で組織されることで、その問題の本質が明確になるからです。
また、私は、コーヒーの有機栽培プロジェクトもエコツーリズムも、人々が幸せな生活を送るための持続的な方法になっていると思っています。また、たいへん喜ばしいことに、アウキ知事によって郡全体での民衆議会というものができました。そのおかげで、この持続可能な試みを郡全体に広めることができるチャンスが広がったのです。この民衆議会というのは、一般の人々(住民)が参加して、郡の政治に対して提案ができるというシステムです。
世界にむけて呼びかける「生態系保護自治体」宣言
1997年の民衆議会で、デコインは、郡全体を「生態系保護自治体」と宣言するように提案しました。これはどういうことかと言うと、郡の取り組み全体を持続可能なものにするということです。私たちは、環境を破壊したり汚染したりしない、また住民の健康を害するようなことをしない事業や企業を誘致したいと考えているのです。そして、多くの害や汚染を生むような鉱山開発などの開発は、禁止するようにしています。このような持続可能な考え方は、コタカチ郡やエクアドルだけで必要というわけではなく、世界全体に必要なことだと思っています。私たちは、次世代や次々世代のための資源に対して、責任をもたなければならないと思っています。そして、それが持続可能ということなのだと考えています。
日本のみなさんに期待すること
私たちは、こうした持続可能な活動が日本でも起こることを願って、ここへやってきました。日本の市民のみなさんには出来ることがたくさんあるからです。私はみなさんに、ただ多国籍企業に利益を与えるのではなく、その地域のコミュニティに利益を与えるようなプロジェクトを支援するようにと、日本の政府に圧力をかけ、訴えていってほしいのです。また、自分の生活や環境破壊が、日本と遠く離れたインタグという小さなところとも大きな関係があるのだ、ということに気づいてほしいのです。そして、これは、特に日本のように多くの資源を輸入している国に言えることだと思っています。日本のような先進国の市民には、こういったことに早く気づき、自国の政府に問題を訴えていくという責任があると思います。
次回は、ぜひインタグ(エクアドル)にいらしてください。みなさんの訪問は、みなさんが私たちを支援してくれている、という証になると思います。
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