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2001年9月フィエスタ・エクアドル講演・・・プログラム2

もう一つの選択肢

エクアドル・コタカチ郡における
草の根民主主義の実践

持続可能な発展への取り組み

ルース=マリーナ・ヴェガ

ルース=マリーナ・ヴェガ
ルース=マリーナ・ヴェガ

ルース=マリーナ・ヴェガ

 先住民族キチュアの医師。コタカチ郡知事アウキ・ティテュアニャ夫人であり、コタカチ市内で開業医を営む。コタカチ郡サンタ・アナ社会助成自治理事会理事長、医療部門委員会専門家委員として「コタカチ・モデル」と呼ばれ注目を集めている新しい地方自治行政においても、ティテュアニャ体制下で指導的役割を果たしている。協同組合、環境、地方自治、地場産業、先住民族問題、女性問題などの各分野に精通している。

草の根民主主義の実践

 私たちはエクアドル・インバブラ州コタカチ郡からやってきました。私はキチュア民族です。コタカチ郡の人口は、約37,000人で、そのうち14,000人が先住民族です。エクアドルには九つの先住民族がいます。エクアドル全体でもそうですが、コタカチ郡には先住民、黒人、メスティーソ(混血)などさまざまな民族がいて、多様な文化があります。
 1996年に私たち先住民がやっと政治家として表舞台に立つことが出来ました。私の夫であり行政上のパートナーであるアウキ・ティテュアニャです。
 アウキは、エクアドル史上初の先住民族の郡知事です。これまで長い間、先住民がいいアイデアを持っていても耳を貸してくれない、また政治的に邪魔をされるということが続きました。私たちは、環境自治体として、文化やそこに住むさまざまな人たちのアイデンティティを守りながら、経済的に発展していくことを目指しています。政治家だけに任せるわけにはいかないので、一般市民も一緒に参加できる草の根民主主義を実践しています。
 これは市議会とは別のシステムです。まず各村から選ばれた代表で構成される観光、衛生、環境などに別れた16テーマのコミテ(委員会)があり、その上に各コミテからの代表で構成されるコンセイロ(理事会)があります。そしてこの16人の理事メンバーが総会を招集し、その総会で決まったことを市議会に提案するシステムになっています。各コミテで討議された内容を受けて年一回、総会が開かれます。総会には住民が直接参加でき一回目は250人、六回目には600人以上の参加者がありました。
 多くの国では、有権者は一度投票して政治家を選んだ後は、次の投票まで何もしないことが多いです。しかしコタカチでは、住民は投票後も常に町の発展のためのプロジェクトに参加していきます。このシステムによって、外国の政治モデルに追随しない、独自の新しいモデルを実践できていると思います。

新しい経済モデルの実践

 エクアドルでの油田開発では、石油産業への依存が増すと同時に、どんどん貧困の問題も増加しています。また、エクアドルでは国内のあちこちで鐘や銅などの鉱山開発が行われていますが、大企業は金を掘り尽くすと、社会的・文化的な問題を残したまま去っていきます。さらに鉱山開発はコミュニティの住民に汚職をすすめ、人間関係にも影響を及ぼします。そのような状況を私たちは望んでいません。
 石油に替わる経済モデルとして、数年前から有機コーヒー栽培プロジェクトを始めました。また、女性グループを組織してカブヤ(サイザル麻)という植物から繊維をとって民芸品を作っています。私たちが望んでいる発展とは、経済だけでなく人間の生活の質や心の豊かさを高めることなのです。

 

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屋久杉に祈りを捧げるルース

先住民族の持つ生命の哲学は「人間は万物の中心ではなく、他の生物と共に生きていくものだ」という考えです。私たちは、人間は他の生物と同等だと教えられます。今まで取り組んできた環境保護や有機農業プロジェクトに、文化的アイデンティティをより深く関連させることで、説得性が出るのだと感じています。
 日本の皆さんとともにやっていけるであろうことは、ローカル経済を発展させたフェアトレードだと思います。有機栽培コーヒーやエコツーリズム、民芸品などを作り、正当な価格でやりとりすることです。国際社会で使われる貿易ルールがどこにでも当てはまるわけではありません。当事者同士で貿易ルールをつくり、フェアトレードによって仲買人を出来るだけ省いたら、私たちが望んでいる発展モデルに近づくと思います。
 また、女性を中心に取り組んできたもうひとつのプロジェクトは地域通貨です。私たちのコミュニティでは物々交換をしていましたが、現在は地域通貨のシステムを取り入れています。お金(米ドル)を使うことは必要とされていません。私たちはドルの代わりに、「クリ(資源)」と呼ばれる紙幣タイプの地域通貨を使います。それで物と交換したり、サービスを提供したりします。コタカチの人口の半分の人たちがドルに依存せずに地域通貨を使用しています。地域通貨で賄っているのは食料が8割です。住民のほとんどが生きていくための基本食料を地域通貨で賄っています。
 私たちのような小さな自治体でも、地域通貨なら自分たちで発行することができます。また、地域だけでなく国境を越えて、例えば日本ともそうしたやりとりができます。日本に食べ物を輸出して、日本の技術を輸入するということも可能だろうと信じています。
 これらのさまざまな活動が認められ、昨年10月には、国連人間居住センター「ハビタット」とアラブ首長国連邦のドバイ市より「2000年ドバイ国際賞」をいただきました。この賞は二年ごとに環境保護や貧困削減、平等な社会づくりなどに貢献している自治体やNGO、メディアなど10団体に贈られるものです。。コタカチ郡はその住民参加型システムと透明性のある自治を評価されました。
 今回、日本に滞在して九州では水俣病の実態を、また屋久島では世界遺産に登録されている環境のすばらしさを見てきました。この二つの情景を通じて、コタカチで私たちがやっていることは正しいのだという確信を深めることができました。今、コタカチで取り組んでいるモデルは日々実践している段階です。成功点もありますが欠点もまだあるので、住民参加のもと、改善をこれからも心がけていきます。
(「環境を考える経済人の会21」での講演より)

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