昨年は9月にエクアドルで「有機コーヒー・フェアトレード国際会議」を開催し、11月にセヴァン・スズキを招くなど、ウインドファームにとって、たいへん印象深い年でした。 そして、スロー(ゆっくり)とシェア(分かち合い)という言葉の重要性を再認識した年でもあります。
本誌(エコロジーの風)は、本号をもって10号となりました。創刊号が1998年ですから、5年間で10冊。かなりのスローペースです。しかし、ウインドファームにとっては、ほどよいペースではないかと思います。
人間は忙し過ぎると、「何が大切なことなのか」ということがだんだん分らなくなってきます。そのため、「スロー」という言葉は、世の中に競争や争いが激しくなるほど、重要になるようです。そのことをNHKが「クローズアップ現代」で昨年取り上げてくれました。番組の冒頭だけ、ご紹介します。
「静かな人気 スローライフ」
スピードと効率にしのぎを削る厳しい競争社会の中で、あせらず、ゆっくり生きるためのキーワード「スロー」が注目を浴びている。効率性やスピードばかりが重視され、大量生産、大量消費、大量廃棄する世の中が長く続いてきたが、いま、そうしたあり方に真っ向から問題提起をしている言葉がある。それは「スロー」。 時間との競争、高速化との格闘が当たり前となっている今の社会の中で、あえてペースを落とし、時間の無駄とも思えるゆるやかなリズムの生き方をしようという考え方だ。
この番組のなかでウインドファームは、「スローなビジネス」として取り上げられたのですが、いま「スロー」が注目されている大きな理由は、現代社会があまりにも物質主義に偏り、目に見えるものばかりを競争して追いかけ、目に見えない心の問題を置き去りにしていることがあるようです。
「スロー」というのは、いまを大事にすることであり、それは、こころを大事にすることでもあります。「競争社会だから、皆がそうしているから、自分もそうする」のではなく、もっと自分を大切にして生きたい、という人が増えてきているのだと思います。
いま、人びとが本当に求めているのは、精神的な豊かさではないでしょうか。その意味で、「スロー」と共に、今の社会にとって、とても重要だと思うのが、シェア(分かち合い)という言葉です。私は、有機野菜の産直運動やフェアトレードに長く関わってくるなかで、「分かち合い」の大切さを感じてきましたが、この数年、特に先住民の方々との付き合いが増えるなかで、その重要性をより強く感じるようになってきました。
世界の多くの先住民は、人間どうしだけでなく、自然とも、未来世代とも分かち合いを大切にしてきました。
一昨年、エクアドルから来日したアルカマリさんは、こう語りました。「先住民族の持つ生命の哲学は、人間は万物の中心ではなく他の生物と共に生きていくものだ、という考えです。私たちは、人間は他の生物と同等だと教えられます。今まで取り組んできた環境保護や有機農業プロジェクトに、文化的アイデンティティをより深く関連させることで、説得性が出るのだと感じています」と。
「アメリカ先住民運動」のリーダーであるデニス・バンクスさんは、こう語っています。「私たちや、私たちを取り巻く環境は皆、自然の一部である。すべてが命のつながりの中で生きていて、互いが互いを必要としている。 環境を大事にすることは、自分自身を大事にすることなのだ。七世代先の人々のことを考え、自分たちが受け継いだ生き方を子どもたちに伝えよう」と。
昨年、「有機コーヒー・フェアトレード国際会議」に参加してくれたメキシコのロサリーナさんも「後の世代のことを考え、自然を大切に守り、分かち合うこと、助け合うことが、皆が幸せになるために最も必要なことです」と語っています。
先住民文化の中には、フェアトレードの重要な哲学が存在しています。
分かち合いの反対側に「独り占め」があります。
人類はこれまで、世界各地で戦争や紛争を起こしてきました。そして、いまだにそれを続けていますが、その原因をたどっていくと、多くの戦争の根っこには、貪欲な独り占めがあります。現在、経済大国である米国は、世界の富の半分以上を独占しており、日本もそれを追いかけています。自分に必要な分だけでいい、という考えはなく、他者の取り分や未来世代の生存基盤まで奪い取っています。その結果、環境の危機と貧富の差が拡大し、「絶対的貧困」状態の人は15年前の3倍の15億人に増え、世界の治安はますます悪化しています。そして、米国はさらなる「国益」のために、地球温暖化防止のための京都議定書からも離脱しました。
世界で最も地球温暖化を進めている米国が、いまの態度を改めなければ、必ず、子どもたちや未来世代のいのちを奪うことになります。(正確に言えば、今すでに未来世代の生命、健康を奪い続けている)その一方で米国政府は、「いつ攻めてくるかもしれないから」との理由で、イラクに戦争をしかけています。米国は、これまでも世界各地で多くの子どもや女性を「誤爆」で殺してきました。子どもたちの生命すら軽んじる米国政府が、戦争で守ろうとしているのは、いったい何でしょうか。
米国に似て、「目先の経済」を最優先する日本の政策は、農薬などの化学物質による環境汚染や食品汚染を拡大しました。ダイオキシン汚染は、世界でも桁外れに高い数値になっていますが、こうした化学物質による汚染は、生態系の生命維持能力を弱めると共に、人の免疫機能や生殖機能を低下させ、アトピー、アレルギー、ガンなどの様々な病気を増やしています。ガンで亡くなる人は、1970年は全死者の17%だったのが、2000年には31%に増加しています。また、若い世代の凶悪な犯罪や殺人、そして自殺が急増していますが、その原因は心の問題だけではなく、化学物質との関連が指摘されています。
しかし、このような事態になっても、「目先の経済」を優先する日本では、子どもたちや未来世代の生命を奪っていく内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)が、いまだに認可され生産され続けています。
子どもたちの生命すら本気で守ろうとしない日本政府が、米国のイラク攻撃を支持するだけでなく、自らも戦争ができる体制をつくろうとしています。子どもの生命さえ守らず、いったい何を守るのでしょうか。
セヴァン・スズキが12才のときにリオサミットでこう言いました。「2日前ここブラジルで、家のないストリートチルドレンと出会い、私たちはショックを受けました。ひとりの子どもが私たちにこう言いました。『ぼくが金持ちだったらなぁ。もしそうなら、家のない子すべてに、食べ物と、着る物と、薬と、住む場所と、やさしさと愛情をあげるのに。』 家もなにもないひとりの子どもが、分かちあうことを考えているというのに、すべてを持っている私たちがこんなに欲が深いのは、いったいどうしてなんでしょう。」
「大人は私たちに、世のなかでどうふるまうかを教えてくれます。たとえば、争いをしないこと 話しあいで解決すること 他人を尊重すること ちらかしたら自分でかたずけること ほかの生き物をむやみに傷つけないこと 分かちあうこと そして欲ばらないこと ならばなぜ、あなたがたは、私たちにするなということをしているんですか」と。
世界中の戦争に反対する人々に愛されているジョン・レノンの歌「イマジン」の一節に、こんな歌詞があります。Sharing all the world(世界を分かち合っている)。そして、その前にはNo need for greed or hunger(欲張ったり飢える必要もない)とあります。
20世紀という時代は、人類の歴史上、最も自然を破壊し環境を汚染しただけではなく、最も多くの人間を人間が殺した時代でした。
ブッシュさん 小泉さん 私たちの国は、20世紀に、いやというほど人間を殺してきたではありませんか。女性や子どもまで、たくさん殺してきたではありませんか。21世紀もまだそれを続けるのですか。
生命に関わる問題です。いくらでも時間をかけて、話し合いをしましょう。
そして、いま、人類にとって、最も大事なことは何かを皆で考えましょう。